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第66 丸薬の一夜 16 ※

突然聞こえた悲痛な声。悲鳴染みたその叫びに、扉に手を掛けたまま、ギガイが動きを停止した。訝しんで振り返った寝台の上では、わずかな動きさえも辛いはずの身体を引きずったレフラが、手をギガイの方へ伸ばしていた。 その姿に思わず眉をひそめれば、さらにギガイの不況を買ったと思ったのだろう。レフラの声と訴えに、一層悲痛さが増していった。 「独りにしないで、もうやだ、独りはいやだ、何でもします、他ならするから、独りはやだ、ギガイ様、行かないで、行かないで」 確かに与えた仕置きは、理性の歯止めが効かないほど追い込まれた身体には十分辛い仕置きだとは分かっている。いくら触れる事を許されたとしても、痒みを伴う内壁はギガイの指が辛うじて届く最奥なのだ。許されながらも、一人で慰める事も適わないもどかしさに、慰めてくれる相手を求める事も想定できる。 だが。パニックに近い状態で、縋るレフラの様子からは身体の疼きを耐えかねての状況には見えなかった。媚薬の効果で紅く色付くはずの顔も、今は青ざめたように見えていた。 (突然どうした。何があった?) 様子のおかしさに踵を返して寝台の傍へと戻れば、カタカタと震えるレフラの手が必死にギガイの腕にしがみ付く。 「努力します、ちゃんと良い御饌になるよう努力します。だから、だから行かないで、独りにしないで、何でもします、お願いします」 壊れたように繰り返すレフラは離すまいと渾身の力を入れてくる。握られた腕にわずかな痛みが走っていた。 「レフラ、離せ」 「いやぁぁ、お願いやだ」 ギガイの言葉にますますレフラの顔が引き攣って必死に首を振っていた。いつものような聞き分けの良さもないまま、縋る様子は明らかにおかしかった。 「分かった。ここに居よう。だが、お前の爪と指が傷付く、まずは離せ」 腕を握られたまま身体を抱えて膝上に置けば、縋るような視線が向けられる。涙で濡れた双眼に差し込む夕刻の日が反射して、止まらない涙が次々と光を纏ったまま零れ落ちた。 その雫を唇で拭い、しがみ付かれた腕とは反対の手で背を撫でてやる。その感触にようやく落ち着きを取り戻したのか、レフラの指がようやく緩んだ。 「…本当に、ここに居てくれますか?」 なぜこれほど怯えているのかは分からない。だが、しがみ付いていた指が傷付いていないか確認し、ギガイがその指先に唇を寄せた。 「独りで置かれるよりは、他の仕置きが良いのだろ?」 仕置きの方法は一つではない。他の何を差し出しても、それがイヤだと言うのなら、最大限の考慮をしよう。 温もりの中で止まりかけていたレフラの涙が、仕置きという言葉に再び溢れた。それでも独りにされる事よりはマシだと判断したのだろう。 「…はい、何でもします……だから、ここに居てください…」 「お前が望むならそうしよう」 レフラの言葉に頷いて、誓いのようにキスを落とす。 部屋を照らす光を反射して、淡く金を纏うレフラの姿に目を細める。その頬を伝い落ちる光の雫に、立ち上がる香りは、どんな宝玉も及ばない至高の宝のようだった。その姿を腕に囲い、ギガイはうっそりと笑った。

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