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第74 柔らかな夜 3

あの村でレフラが得られるのは、大切な供物を損なわないよう生かす為の世話だけだった。幼心に感じていた事を思い知らされた日の事は、今でもハッキリと覚えている。 でももうレフラだって辛いと嘆くだけの子どもではない。そんな過去さえ一族を守るという定めの元に、必要な日々だったのだと考えていた。だから辛くても惨めな人生ではないのだと思っていた。 そう今までは思っていたのだ。間違いなく。 それなのに、ここに来てからはどんどんダメになるのだ。 それは隷属の扱いをされる辛さのせいではない。初めに隷属として与えられた淫辱の中で、確かに辛さに泣いて脆くなった部分もあった。それでも今さら過去を嘆くのは、初めて与えられる優しさに、これまでの日々のごまかしきれない惨めさを痛感させられてしまったからだった。 もう今のレフラには、懸命に立っていた時のように抗うような気力はない。記憶の絶望感にリンクするような状況下で、孤独の恐怖に打ち勝てるとは思わない。それでもギガイに知られるのは嫌なのだ。 (どうすれば良いんですか……) 正解なんてあるのだろうか。分からない。だけどこのままだともう二度と考慮はしてもらえない。どれだけ後から後悔をしても、きっとこの主は『お前が選んだ事だ』と言って挽回さえ、させてはくれないだろう。 誰よりもレフラへ優しさをくれるのに、同じぐらいに誰よりも怖い主なのだ。むしろ甚振られる方法の一つになるのかもしれない。 不安や恐怖で膨れ上がる心に、次々に浮かんでは消えていく記憶達。その中で幼いレフラが孤独の辛さに泣いていた。様々な感情で渦巻いていた心がパチンと弾けるように限界を迎えた。 「……イヤだ、そんなのイヤだ、やだ!!」 幼い子どものような訴えがレフラの鼓膜を震わせる。記憶の中の声なのか、実際に零れた声なのか、一瞬レフラ自身には分からなかった。だがそんなレフラの両頬をギガイの掌が掬い上げた。 「怖いなら怖いと素直になぜ言わない。私は素直であれ、と言わなかったか?」 無理やり顔を合わされる。添えられた掌は案の定、逸らす事を許さないと容赦ない力で拘束していた。それでもレフラの恐れに反して、目は温かく柔らかかった。 「……独りは、イヤです。独りで苦しいのは怖いです…く、苦しい時は、一緒に居て、下さい……」 「ああ、そうだな。その時には一緒に居よう」 睦言を紡ぐように、レフラの懇願へ返ってきた声音は甘く柔らかい。だがそれに反して会話の中身は、穏やかだとは言えなかった。今日と同じような苦しみが、また与えられるのだと告げるような内容なのだ。不安が津々と心の内に降っていき、ギガイの掌をレフラがキュッと握り締める。 そんなレフラの不安を酌み取ったのか、ギガイが宥めるように頬を撫でた。揺れる瞳で見つめるレフラへ「そのまま素直でいろ」と告げる声音は柔らかい。促されるままに頷いたレフラの目蓋へ触れる唇は、褒美のような優しい感触だった。

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