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第101 病中の甘え 2
堪えるように身体を小さく丸め込む。額から滑り落ちたタオルを握れば、そのタオルを乗せてくれたギガイの手を思い出してより一層切なさが募った。
「…そばに、いたい……」
隣の部屋に居ると頭を撫でてくれた。でも仕事だと言っていた。熱で重たい身体を引き起こして逡巡しながら耳をすませば、ギガイの声が扉の向こうから確かに聞こえてくる。その声に引き寄せられるようにレフラはフラフラと立ち上がった。
ワガママを言って困らせたいわけじゃない。それでも不調で弱った心に独りを耐える力はほとんど残っていなかった。
掛け布を引きずりながら寝台を降りる。天蓋の厚い垂れ幕で遮られていた光りの眩しさに目を瞬かせて目的の扉へと近付いていく。
一歩近付けばその分だけハッキリと聞こえてくるギガイの声にレフラの心がきゅっと疼いた。レフラは扉にもたれながら座り込み、ギガイの声を追いかけるように目を瞑る。
いつもの柔らかさのない声はどこか知らない誰かのようでもありながら、でも聞き慣れたその重低音はちゃんとギガイの声なのだと感じさせた。
(ちゃんとここに居てくれる。だから大丈夫。独りじゃないから大丈夫)
そう思うのに、増していく寂しさはなぜなのかが分からなかった。ただただ心が弱くなっているだけなのかもしれなければ、こんなに近くに居るのに近付けない事が悲しいのかもしれない。
現に扉の向こうに居る、ギガイの傍に居る誰かの存在が今のレフラには羨ましくて仕方がなかった。
(あぁ、ダメだ……)
気が付けば、頬を涙が伝っていた。みっともない事は分かっている。何でこんなに涙もろく成ってしまったのかと自分自身が嫌になる。
でも止めようと思うのに。そう思えば思うほどにコントロールが出来なくなった双眼からは涙がボロボロと零れていった。
「…っふ、ぅぅ…っふ……」
漏れそうになる嗚咽を殺すために唇を噛みしめ、掛け布へ押し当てる。ついでにこぼれ落ちる涙も布が合わせて吸い込んでくれる事は都合が良かった。こうしていればいつかは涙も止まるだろう。このまま少しだけでも休もうと目を閉じたレフラは改めて耳を澄ませながら扉にもたれた。
(……えっ?)
その瞬間、不自然に声が途切れて、突然足音が近付いてくる。状況にレフラが身構える事もできないまま、突然外へ開かれた扉に支えを無くしたレフラの身体がゴロンと床へと転がった。
「お前はここで何をしてる?」
頭の上から聞こえてきた声にレフラが恐る恐るそちらを見上げても、傍に佇むギガイの表情は陰になって全く見えない状態だった。
与えられた指示に従うのは当然の事。そしてこの主は『このまま寝ていろ』と寝台のレフラに言っていた。ここでレフラがこうやっている事自体が、ギガイの言葉に背いている事は明らかだった。
それでも。
「…さみしかったんです……」
今は少しでもギガイの傍に近寄りたくて。
「…ごめん、なさい……」
レフラはぎゅっと掛け布を握った。
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