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第103 病中の甘え 4

「薬が効いてないな」 気まずくなって俯いて顔を隠したレフラの首筋に、ギガイの掌が添えられる。レフラが好きな大きなギガイの掌だった。 「熱がまだ高い」 少しかさついたその手がレフラの熱を測って、そのまま寝台へ伸ばされた。このまま寝台へ横にされて、改めて掛け布を被せられてしまうのだろう。嫌だと思いながらも何も言葉は吐けない唇をレフラはキュッと噛みしめた。 後頭部を支えるように掌が添えられ、寝台の上でギガイが身体を傾ける。このままシーツの上に置かれて、もう一度寝かしつけられて、そしてそのままギガイが出て行ってレフラは独りになる。そんな当たり前の流れへ最後の抵抗をするように、ギガイの胸元を握る手にレフラは込めきれるだけの力を込めた。 だがレフラの身体を抱き寄せるギガイの掌の力は緩むことなく、寝台の上から掛け布をさらに取ったギガイがその布でレフラの身体を包み直した。 「持っていられるか?」 差し出された物は一体何だろう。正体を確認もしないままコクリと反射的に頷いたレフラが、素直に受け取って抱え込む。その柔らかさから枕だと気が付けば、レフラが目を瞬かせた。 「休まなければ薬が効かないからな。とりあえず私の傍で休んでいろ」 だが聞こえてきたのは溜息が交じったような声だった。そんな声音が聞こえてしまえば、レフラの胃の辺りが冷たくなって、申し訳なさにキュッと身体も縮こまる。こんな風に迷惑をかけるつもりでは無かったのに、どうしてこうも上手くいかないのか。 「ごめんなさい……」 鼻の奥がツーンとして、謝罪の声もまた湿っぽく成ってしまって嫌気がさす。これ以上の迷惑を掛ける訳にはいかなかった。レフラはギガイの袂を握っていた手を離して、皺の寄ってしまったそこを掌で(なら)していく。 「ギガイ様が困るなら…ちゃんとここで待ってます……」 「そうではない。困ると言うわけではない。ただ、お前の姿を他にあまり見せたくなかっただけだ」 「…姿?なぜ?」 今まで散々受けてきた周囲の評価からは、そこまでみっともない容姿はしていないはずだ。だからこそ、レフラにはギガイの言葉の意味が分からずに戸惑ってしまう。 「まぁ、いい。それはお前が気にすることではない。だからお前は気にせず傍で休んでいろ」 「…でも、お仕事が……」 自分でも白々しく感じるような言葉だった。だがギガイの邪魔になりたくない気持ちも、他の者へ醜態を晒す事を居たたまれないと思う事も本音だった。 「このままでは仕事が手に付かん。お前が傍で休んでいる方が私としては都合が良いが、お前はどうだ休めるか?」 レフラへ逃げ道を与える為の質問だという事は分かりながらも、与えられたその逃げ道を要らないと言う事は出来なかった。ギガイの言葉の白々しさに気付かない振りをして、レフラはギガイへ縋り付きながら「大丈夫です」と頷いた。

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