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第113 静寂の宮 2
レフラの灰色が混ざった青い目が4人の方へ向いていた。
リュクトワスも会ったのがこれで3度目とは言っても、視線を交わしたのは今日が初めての事なのだ。その間ほとんど意識のなかったレフラにとっては、初対面と言ってもおかしくなかった。
姿勢を真っ直ぐに正して静かにこちらを見ているレフラの様子からは、先日ギガイに寄り添って眠っていた時のような幼さは少しも感じられない状態だった。
(この姿が平常の御饌様か)
聡明さを感じさせるような涼やかな目元に、白磁の肌。色付いた唇がその中で、ひときわ目を引いていた。
ギガイの側近という立場からは、その伴侶となるレフラの情報も知っているに越したことはない。値踏みをしていると思われてしまわないよう、手早く視線を走らせながら黙って前へ進んで膝を折る。首を垂れたリュクトワス達の前で、なぜかレフラが慌てているようだった。
「頭を下げて頂く必要はございません。お願いです、立って下さい」
おそらく傅 かれる事に慣れていないせいで、戸惑ってしまって居るのだろう。だが次の族長の生母と成る予定で、現在は主の絶対的な寵愛を受ける御饌なのだ。こうやって秘されて居なければ、黒族内ではギガイに次ぐ存在として、レフラは全ての民から貴ばれていてもおかしくなかった。
「いえ、レフラ様は御饌様でございます。そう言う訳にはまいりません」
傅かれるべき立場なのだから、あとは慣れてもらうより仕方がない。だがどうしても戸惑いが強いのか、慌てたままのレフラにはすんなりと受け入れきれない様子だった。
「お願いです、本当に私はかまいません。せめて顔を上げて下さい」
「いえ、お立場というモノもございます。どうかお気になさらずにお話し下さい」
冷静に正論を語る時の自身の雰囲気に、取り付く島がなくなる事をリュクトワス自身知っていた。言外にこれ以上の交渉は無意味なのだと告げられて、レフラもようやくリュクトワス達への説得を諦めたのか、言葉を飲み込む気配がした。その後にわずかな静寂が部屋の中を満たしていく。
外から鳥の鳴き声が聞こえていた。その事がこの宮全体の静寂をますますリュクトワスへ痛感させる。そんな静寂の中で空気がかすかに揺れた様子に、チラッとリュクトワスはレフラの方を窺い見た。
口元に苦笑をかすかに浮かべたレフラの表情は、どこか寂しげに陰っていた。だが多くの女性たちが欲しがるギガイからの寵愛を一身に受けて、レフラ自身もギガイの傍で幸せそうな様子はあったはずなのに。
(それなのになぜそんな表情を?)
聡いと称されるリュクトワスにも、レフラの考えが分からなかった。
「リュクトワス様は優秀な方でいらっしゃるようなので、取り繕っても無意味でしょうね」
「取り繕う?何をでしょうか?」
リュクトワスの心がなぜかザワリと波だっていく。それは磨き上げられた武人としての直感のようなものかもしれない。その勘がこのままレフラの言葉を流してはいけないと、なぜだか強く警告していた。
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