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第123 静寂の宮 12 ※

「快感を身体の奥まで覚え込め。抱かれている間は理性さえ飛ばすほどにな。私なしでは居られないほど疼く身体になれば合格だ」 聞こえてきたギガイの言葉にレフラが目を見開いた。 「じょ、じょうだん…です、よね……?」 どこかデジャブを感じる会話だった。でもこうやって言葉を交わしながらも、ぐずぐずに熟れた身体の熱は冷める様子がないまま、ずっとレフラを苛んでいた。 「さあな。お前がそう思っていたければ、それでいい」 そんな状態を知りながらも、ただただ柔らかな目を向けるギガイからは、ふざけているような気配は感じられなかった。 この主がやると言うならやる事を、レフラは身を以て知っている。この後に一体どれだけの快感に虐められてしまうのだろ。怯えに思わず引きつった顔でレフラはブンブンと首を振った。 「うん?どうした?行為の時は頑張る約束なはずだが?」 レフラの精一杯の訴えや怯えを特に気にした様子もなく、ギガイの舌がレフラの頬を伝う涙を舐めとっていく。そんな一切の考慮をされていない様子はレフラに不安を積もらせた。 頬を辿っていた舌が耳殻に這わされてしまえば、ギガイの表情さえ見えなくなって、何を思っているのかも分からない。 日頃見た事がなかったような、冷たい姿を散々目にした直後だったせいかもしれない。 不安を一切考慮されずに甚振られる恐れが、始めの時に身体を開かれた記憶へと繋がって身体がカタカタと震え出していく。 せめていつもの琥珀の目が見えていたなら良かったのに、愛しんでくれる様子が見えない中でのその言葉は今のレフラには怖かった。 「がんばり、ます…ちゃんと……だから、おねが、いです…てかげんを…して……おね、がい……がんば、るから……」 思わず懇願した言葉は口調さえ乱れてぐだぐだだった。不敬だと叱られてしまうかもしれない。いや、それ以上にギガイへは守って貰っている約束を、こうやって交渉する事の卑怯さを咎められるのかもしれない。 約束を反故にする事へは何よりも厳しい主だった。また『お前が言った事だ』そう言ってますます責められてしまう可能性にレフラの顔が青ざめた。 「…こわ、い…ふうっ、ううっ……こわ、い……」 「どうした?突然?」 さすがに様子が変わった事に気が付いたのか、腕の拘束を解いたギガイがレフラの身体を抱え直す。正面を向かされてしまえば、そこに在ったのはいつもの蜂蜜色の眼差しで、かつて見た赤味がかった色はどこにも見えなかった。 ギガイの首に腕を回したレフラがぎゅっとしがみ付く。 「…てかげんをして、ください…がんばる、から…ちゃんと、がんばります……だから、おまえが、いったことだって、いわないで……」 「それが怖かったのか?」 髪を梳く指も、確認する声音も優しかった。それでも行為の最中には、その優しさを纏ったままで突き放す事だってある主なのだ。浮上した心が落とされる事は今はどうしても辛かった。 今ではもう聞く事がないギガイの冷たい声が蘇り、レフラはコクッとギガイの首元で頷いた。

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