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第131 有期の幸せ 2
「煽るな。今すぐ抱きたくなるだろ、それともそういうつもりで誘っているのか?昨日の行為で足りなかったというなら話は別だが?」
「違います!誘っていません!十分に足りてます!!」
見慣れない扉を開いたギガイに、レフラは慌てて首を振った。だがそんなレフラの焦りなど、気にする様子もなく部屋の中へ連れ込まれる。このまま本当にこの部屋の中で昨日の続きをするのだろうか。
ドクッと大きく跳ねた心臓に、レフラは慌てて腕の中から逃れようとギガイの身体を押し返した。
ギガイの言葉だけでも簡単に身体に熱が灯るほど、昨日はぐずぐずに溶かされ泣かされたのだ。身体の芯まですり込むように与えられ続けた快感に、イかせて欲しいと何度も懇願した記憶だって、まだあまりにも鮮明な状態だった。
レフラはもう一度ギガイの身体を押し返し、ヤダッと首を大きく振った。
それはこの主にとっては抵抗というより、ほんの身動き程度の事だっただろう。それなのに、そんなレフラの抵抗のままに、珍しくギガイがレフラの身体を解放する。
靴裏に感じた床の感触に、レフラはえっ?とギガイの方を仰ぎ見た。だっていつだってレフラのささいな抵抗など流されて、一度だってこんな風にギガイの腕から離された事なんてなかったのだ。
(今日に限ってどうして……?)
身勝手だとは思いつつも、ギガイからの突然の解放に、突き放されたような気持ちになる。
「不安そうな顔になるな。せっかくお前をここに案内する為に来たのに、本当にこのまま抱いてしまうぞ」
苦笑したギガイがレフラの肩を押して、身体の向きをクルリと変えた。その瞬間、なぜ今まで気が付かなかったのか不思議になるぐらいのインクの匂いがレフラの鼻孔をくすぐった。
目の前に並ぶいくつもの棚。その中にはさまざまな本が隙間なく、整然と並べられている。
本を傷めないよう、採光に工夫がされているのだろう。光は天井や壁に跳ね返って間接的に部屋を柔らかく照らしていた。
「…ギガイ様、ここは…?」
「お前専用の書庫だ。この宮から出なければ、あの部屋に居続ける必要はない。この宮を自由に使うと良い」
思ってもいなかった言葉だったのだ。あまりの状況に圧倒されて、レフラは驚いてキョロキョロと部屋を見回した。
「…ここを本当に使って良いんですか?」
「あぁ。お前の為の場所だからな」
これだけの書物を見た事なんて一度もない。たった一冊の本を強請る事でさえあんなに戸惑っていたのに、ここにある全てが自分専用だと言われた事がレフラにはどうしても信じられなかった。
「本当ならこの宮に来てすぐに案内するべきだった。あの部屋にずっと独りきりは辛かっただろう」
そんな中で聞こえた言葉にレフラはフルフルと首を振った。
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