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第132 有期の幸せ 3
寂しさを感じなかったと言えば嘘になる。でも身体が辛く理性が働かない時にはずっと傍に居てくれた。
隷属の身として今が破格の扱いなのだから、本来ならそれぐらいは堪えるべき事だとレフラはちゃんと分かっていた。
「ギガイ様をお待ちしている時間は辛くなかったですよ」
安心させるようにニコッと笑い、何でもない事だとレフラは告げた。だが日頃は目敏いギガイ相手にそんな誤魔化しは効かなかったのか、ギガイは溜息交じりにレフラの身体を抱き寄せた。
「お前はそうやって我慢をしてしまう。そうなれば、きっと私は気付かない事もあるだろう。私の為にも素直に告げてくれないか。今のお前はどうしたい?何か求めている事はないのか?」
その言葉に何もないと告げかけながらも、レフラは思わず逡巡した。その一瞬の間にギガイが目敏く気が付いた。
「何も無いは認めん。素直に話せ」
「……何でもよろしいのですか?」
「…私から離れる事以外ならな」
少し気まずそうな態度なのは、前にそうやって勘違いをしてレフラを傷付けたせいかもしれない。『思い違いをした』と辿々しく告げていたギガイの姿を思い出し、レフラの心に甘いざわめきが広がっていく。
「宝石も紗も珍しい香油も私は要りません。ただ…ギガイ様と色々な事をしてみたいです…。散歩とか読書とかお昼寝とか、もし叶うなら一緒に市場や遠くにも行ってみたいです…」
「遠くとは?」
「ギガイ様と行けるならどこでも良いです。ギガイ様と色んな物を見てみたいです」
「この宮を出てか」
「……はい。ただ難しい事は分かっています。だからただの願望です。ただ、こうなったら良いな、って思っただけです」
ギガイの忙しさに加えて、こうやって特別な宮を与えられているぐらいなのだ。御饌が出歩くなんて許されていない事なのだろう。いくらバカンスだと浮かれていたとしても、道理を知らない子どものようにワガママを通せるはずもないのだから、レフラは誤魔化すようにフフッと笑った。
だが思わず取り繕うようにそう言ったレフラの唇へ、ギガイの唇が触れるように落ちてくる。
「私は素直に告げろと言ったはずだ。そして、これがお前の求めている事なのだろう?」
「……はい」
「なら出来るだけ叶えてやる。だからそんな風には笑うな」
ギガイの言うそんな風とは、一体どんな状態の事なのか。レフラにはさっぱり分からなかった。だけど叶えてやるという言葉も、そう言って笑ってくれた事も嬉しくて。でも何だか泣きたくて。こみ上げてきた色々な感情のままに、レフラは目の前のギガイの首へとしがみ付いた。
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