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第135 非常な日常 3

「あぁ。これから度々外へ出るなら、髪を束ねる物があった方が楽だろうからな」 「…ありがとうございます」 贈り物というならレフラが初めに望んだ通り、すでに特別な時間をギガイから貰っていた。だけど初めて手に入れた形がある贈り物は、一層胸を締め付けるぐらい嬉しかった。 横へ流した髪束にソッと伸ばした指先で、結わえられた紐の感触を楽しんでいく。滑らかな紐の指触りも首筋に受ける風の涼しさも新鮮で、レフラは潤んだ目を誤魔化すように目を瞬かせて微笑んだ。 「礼なら今日の夜にでも返してくれれば良い」 そう告げたギガイは柔らかいのにどこか悪戯めいた笑みを浮かべていた。どこまで本気なのか分からない言葉にレフラが戸惑った表情を向けるのと同時に、露わになった首筋をギガイの指先が撫でてくる。その意味ありげな感触は交わる時を思い出させて、ビクッと身体が跳ね上がった。 「ま、また!こんな所ではダメです!」 一気に顔が熱くなる。首まできっと真っ赤に成っているはずだ。慌てて首筋を押さえながら離れたレフラをギガイがクックッと笑っていた。 からかわれたのかもしれない。でも脳裏に過ったのは、さんざん嬲られた前回の記憶だった。首筋から耳殻まで何度も弄ばれて、最後は快感で立っていることさえ辛かったのだから、警戒だってしてしまう。レフラはそのままギガイの手が届かない位置まで距離を取った。 あの時よりも格段に身体は快感へ弱くなっている。再び触れられてしまえば、きっとあの時以上に乱れた姿を晒すだろう。想像しただけでも恥ずかしくて、フルッとレフラは身体を震わせた。 それに居たたまれないのは、それだけじゃなかった。いや、むしろこっちの方がレフラにとっては問題なのかもしれない。それは、もしギガイの指や唇が優しくレフラへ触れてきたのなら、もうどんな状態でもレフラには拒めそうにもないという事だった。 拒む事が許されていない、とかそういう事ではない。今の自分ならどんな場所や状況だって、きっと求められるままに受け入れてしまうはず。そんな予測というよりは確信に近い感情が心の中に存在するのだ。 (だって恋人同士のような交わりなんて、今だけなんです……) 大切に想われながら肌を重ねるなんて一生ありえない、そう思っていたのだから。やっぱり受け入れてしまう自分の姿しかレフラは想像が出来なかった。 そうなれば、ひどく乱れて恥ずかしい事になるのだろう。行為に慣れないレフラにとって、羞恥は快感を高める刺激というよりは、まだまだ苦痛に近いモノなのだ。そんな事は分かっているのに、触れられる事をきっと身体も心も喜んでしまう。 (そうなったらギガイ様の意地悪も増えてしまうかもしれないのに…) いやそもそも、本人が喜んで受け入れる行為をいったい誰が意地悪だと思うのか。むしろ喜んで受け入れているなら、止める必要も感じないだろう。 ギガイとの約束は、交わる時以外は意地悪(・・・)をしないという事なのだ。逆を言えば、意地悪でさえなければ構わないと捉えられてもおかしくなかった。 (その時は、どうなってしまうんでしょうか……) 受け入れなければ良いと思うのに、レフラにとってギガイから与えられる行為はイヤではないのだから仕方がない。 キュッと胸が締め付けられる苦しさと甘い疼きが同時に湧いてくる。なんだか途方に暮れてしまって、レフラはそこから動けなかった。

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