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第148 揺れる足元 1 ※

昼下がりの書庫の中。 書架の間で整然と並ぶ背表紙をレフラが追い始めたのは、昼餉を終えた直後だった。 『リュクトワス様からこの辺りにあるはずとお伺いしたんです…』 『そうか、ならもう一度探し直してみるか』 その言葉と共にギガイに抱き込まれるような姿勢となってから、もうどれぐらい経っただろう。 棚の上部の背表紙を確認する為に近付いただけだとは分かりながらも、背中に感じる体温がなぜかひどく熱かった。 背表紙を辿っていた指にいつの間にか絡み合ったギガイの指が、指の間を掠めていく。 そのたびに自然と身体がぴくっと跳ねて、レフラはひとりで戸惑っていた。 さっきと同じように本を一緒に探しているだけなのだ。 レフラの背後に立つギガイが高い所にある本を代わって取ってくれ、そのままたわいもないことを話ながら、背中の温もりを感じていた。探し始めた時からずっと変わらない状況だった。 (それなのになんで……) レフラの戸惑いが深くなる。 いつの間にか身体を包むギガイの匂いがインクの香りに混ざっていき、身体の内に燻り始めた熱も息苦しさを伴っていた。 さっきと変わっている事なんて、背表紙を追っていた手がギガイの右手に絡め取られているだけで、それ以上のことはない。 それなのにギガイの固い指先が掠るように撫でるだけで、触れられた場所が粟立つように疼くのだ。 その疼きをレフラは知っていた。 間違ってもこんな何気ない行為の中で、感じるようなものじゃない。 それは本当ならもっと羞恥を伴った隠すべき行為、ギガイと交わる行為の中で感じるような感覚だった。 それなのに日常の中で感じてしまったことに、レフラはうろたえてしまっていた。 「読んでみたい本は見つかったのか?」 頭上から聞こえてきた声にハッとする。 大量の背表紙を前にして、いつの間にうつむいてしまっていたのか、伏せていた顔をレフラは慌てて上げた。 気付かないうちに止めてしまっていた呼吸を吐き出せば、思った以上に熱っぽい吐息が口からこぼれ出す。カッと熱くなる頬にレフラはとっさに息を詰めた。 「ギガイ様…手を、離してください…」 「どうした?」 そうやって聞きかえす声はどこか悪戯染みている。ようやくこのおかしな感覚がギガイの悪戯によるものだったと気がついて非難がましい目を向けた。 「ギガイ様、これでは本が探せません…っ」 「なぜだ?私は手に触れているだけだぞ」 訴えをサラッとかわしたギガイの指先が、また手の甲から手の腹へとそっと指を這わせていく。 ただでさえ掌は神経が詰まった場所なのだ。そんな敏感な掌を何度もかすめるように撫でられた。 その感触にまたレフラの身体がピクッと跳ねる。 「何も特別なことはしていないが、どうした?」 どうした?と聞きながらも、こうやって悪戯をしかけてきたギガイには、ハッキリとレフラの状態が分かっているはずだった。 それでもギガイの言うとおり触れられている場所が右手だけだと思えば、意地悪だと訴えることも躊躇ってしまう。 「…く、くすぐったい、です…っ!!」 とっさにそう言ったレフラがこれ以上悪戯されないように、ギガイの指先をキュッと握り込む。だけどこの行為も含めてギガイの予測どおりなのか、クツクツと笑い声が降ってくる。 「そうか、くすぐったいのか。それなら慣れるまで触れてみるか」 「だ、ダメです!!」 「なぜだ?慣れれば気持ち良くなるかもしれないぞ」 その言葉と一緒にギガイの舌がヌルッとレフラの指に絡みつく。それはまるで弱い場所を弄う時のギガイの愛撫を思い出させるような動きだった。 快楽を煽っていくように指の股を舐られて、そのまま口腔内へ引き込まれる。指を繰り返し甘噛みされながら絡んだ舌が根元から先へと嬲っていた。 身体の中にくすぶるように熱がどんどん積もっていく。それだけでレフラの茎は固く起ちあがってしまっていた。

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