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第161 揺れる足元 14 ※

浴室に白い湯気が立ち込めている。湯がたっぷりと張られた大きな浴槽の中でレフラが顔をしかめながらギガイの方を振り返った。 「ギガイ様、手が染みます。あと腕も腰も痛いです」 「だから無理はするな、と言っているだろう」 呆れながら湯の中から掬い上げた両手は痛々しい。傷の状態を確認して、ギガイは思わず眉をひそめた。 「湯に浸けるな。傷が炎症している間は痛みが増すぞ」 ギガイの言葉に素直に頷いて、ぷかぷかとレフラが両手を水面に浮かばせる。よほど傷が痛いのだろう。情けなく下がった眉とその仕草は、いつもよりレフラをずいぶん幼く感じさせた。 「後で薬を塗ってやる」 いつもに増して掻き立てられる庇護欲に、ギガイは慰めるようにその眉尻にキスをする。 「ありがとうございます」 嬉しそうにフワッと微笑んだレフラから、途端に立ち上がる花の香り。あわせて眦を染めて胸板に擦り寄る姿からは、ほんの数秒前にあった(いとけな)さが消えていた。 沸き立つ色香がギガイを的確に煽っていく。顎先を摘まんで上向かせ、引き寄せられるままに紅くふっくらとした唇をペロッとギガイの舌が舐め上げた。 「…っぁ」 たったそれだけの触れ合いだけでも敏感に反応を返す姿がたまらなかった。拒むことなく従順に開かれた唇の健気さへも、ギガイの目は機嫌良く目を細めた。 だがその隙間へいつものようには差し込まず、わずかに覗く粘膜だけを舌先で掠めるように弄っていく。 いつまでも絡まらない舌はもどかしい刺激になったのだろう。唇の隙間からレフラの舌先がギガイの舌へと触れてきて、促すようにチロチロと舐めた。 レフラが何を求めているかは知っている。だがあえて素知らぬふりで舌先を、レフラと同じように愛撫すれば、深まらない舌の愛撫のもどかしさが堪えきれなかったのだろう。弄っていた舌先が口腔内へ逃げ込んだ。 その舌を追いかけず、再び唇とその内の浅い粘膜だけを嬲っていく。何度もその行為を繰り返せば、ギガイの意図に気が付いたのか。レフラが震える舌を差し出した。 「そのまま動くな」 差し出された舌を舌先で辿って刺激する。口外で舐られる羞恥に堪えきれないのか、顔を紅く染めて眦には薄らと涙が滲んでいた。 それでも必死に舌を差し出す姿に、ギガイが口角を上げて微笑んだ。その満足そうに笑う姿は、狩った獲物を前にした機嫌の良い獣の姿のようだった。 ひとしきり口外で楽しんだ舌を口腔内へ咥え込み、何度も裏筋を嬲って甘噛みを繰り返す。痛みと快感を繰り返して蓄積された快楽に弱くなるよう育てた身体は、もう堪えきれない状態なのだろう。 唇を解放した身体はクタリとギガイへもたれ掛かるだけだった。湯の下で立ち上がった茎は決定打となる刺激もないまま切なく震えているはずだ。 熱を吐き出せないまま疼いている身体を知りつつも、ギガイはレフラへの愛撫を中断した。 「…ギガイさま……」 向けられた視線が切なげに潤んで揺れていた。 「欲しいのか?」 「…はい…」 恥ずかしそうに躊躇った返事は小さかった。その頭をスルリと撫でながら。 「その前に今後の約束をしてからだ」 そう告げたギガイをレフラが「えっ?」と見上げていた。

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