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第162 揺れる足元 15 ※

「今後…?」 何のことを言われているのだろう。 分からないまま聞こえてきた言葉を、レフラはただ繰り返す。このまま触れてもらえると思っていた所で解放された身体が甘く疼いていた。 「お前の事だ。先に約束をしておかなければ、また無茶をされかねないから言っておく」 突然向かい合うように身体を返されて目をパチパチと瞬かせた。 改まっていったい何の約束なのかは分からない。それでもギガイの雰囲気に圧されるように、身体の熱がわずかに静まる。 「明日、明後日は休め、分かったな」 そんな中で聞こえた言葉にレフラは目を丸くした。 「そんな!大丈夫です、やらせて下さい!」  「大丈夫なはずがないだろう、ダメだ」 「でも!」 湯に浸けないように気をつけていた両手をギガイの手が掴み上げ、眉をひそめる態度は日中の時以上に固かった。 「私はゆっくりやれと言ったはずだ。そんな手でなぜ無理を重ねようとする?」 「…無理などしておりません」 「何をそんなに急いでいる?」 声がどんどんいつもの温もりを無くしている状況に、これ以上はマズイとレフラの中でも警告染みた思いはあった。それでも募る焦りがもう少しだけ…そんな思いを生んでしまう。 「本当に何もーー」 「いい加減にしろ」 耳に届いた声は本気で不快そうな響きを持っていた。 その声にレフラの肩がビクッと跳ねる。そんな声で咎められてしまえば、もうこれ以上はレフラも意地を通す事が難しくなる。 「制止も聞かず、理由も言わない。どういうつもりだ。そんな上辺の言葉で取り繕えると思っているのか。だいぶ私も侮られたものだな」 「…そういうつもりではなかったんです。申し訳ございません…ただ、どうしてもやりたくて…」 「だからなぜだと聞いている」 「……」 本当のことなんて言えなかった。そうなると何を言えば良いのか分からずに、レフラは必死に言葉を探していた。だけどこの沈黙が最後のギガイの温情を無下にしてしまったのだろう。 「…もう良い」 苛立ちも全て消えてしまったような声は平淡で何を考えているのか分からなかった。その声に心臓がドクッと大きく跳ね上がる。 「そんなにやりたいのならば、やれば良い」 冷たい声以上に不安を煽る声なのだ。 見放されてしまったようなギガイの言葉に、きっと向けた顔には隠しきれない不安が浮かんでいる。だけど交わったギガイの眼光は、今までのように和らいでレフラの不安を癒してくれる様子は少しもなかった。 「ただし、やれるものならな」 「…ギガイ、さ、ま…」 「私は言ったはずだ。お前自身であっても勝手に傷付ける事は許さないとな」 「ーーーーッ!!」 それは初めて交わった日に伝えられた言葉だった。 さんざん与えられた痛みや恐怖が蘇り身体がカタカタと震え出す。不安に跳ね上がる心臓は、今にも破裂しそうに痛んでいた。

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