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第191 直後の2人 12
落ちた身体を手早く清めて、ギガイ自身も身体を再び横たえる。
腕の中に抱き込んだ身体から立ち上がる柔らかな花の香も、触れあった肌も心地良かった。
立て続いていた激務にすり減っていたのは、ギガイも同じだったようだ。眠る時間はもうほとんど残っていない状況でも、レフラから得た癒やしに心身共に軽くなっているようだった。
そっと髪を梳いて、眦に触れる。
寂しいと涙を浮かべていた姿を思い出して、心の奥がツキリと痛んだ。
雨が続いているせいで気持ちが鬱ぎがちだったのかもしれない。その中で、護衛につけている3人とも、外へ出ることもできていない様子だった。
そのことに重ねてレフラ自身が望んだことが切っ掛けとはいえ、ずっと触れ合うこともできない状況は、孤独をひどく苦手とする心には大きな負担だったのだろう。
ギガイにとってレフラ以上に大切なモノは存在しない。それでも族長を務める以上はこうやって、レフラの負担となることも今後だってあるはずだ。
(いや違う。まだ警備の件さえ未解決だからな……)
そうなれば今度触れ合えるのは下手すれば祭りの後で、確実に再び寂しい思いをさせるだろう。
(レフラの存在が露呈 したタイミングが悪かった……)
よりにもよって警備が手薄になりやすい、祭りのタイミングが重なっている。多種族が領地内へ出入りするため、一カ所だけに手厚く警備を割けきれない。
だが、もしも自分が叛意を持つ立場なら、このタイミングでレフラの存在は間違いなく狙うだろう。
せめて1年、いやあと半年でもあれば、それなりに臣下を鍛えて専属を増やさせた。だが、いまからレフラの身辺を固める専属を育て上げるには時間がない。
どこから警備を割くべきか。それとも祭りの期間はこの宮から別な場所へと移すべきか。宮の存在がバレていないとしても、日頃から人払いがされた場所では何かが起きてからでは対応が遅れる。
(しかも祭りの騒がしさの中だ。多少の騒がしさは掻き消される)
ずっと自分がそばに居られれば良い。自分の腕の中ならば、何からだって守ってやれる。1番安全で安心して守ってやれる場所なのに、その期間この宮に詰めているのは、現実的にムリだった。
「……いや、違う」
そこまで思ってフッと湧き出た答えに思わず言葉が零れた。慌てて眠りを妨げたか、と腕の中に目を落とす。
だがこんな時間まで起きていた状況を見ても、最近上手く眠れていなかったのだろう。それに加えて追い詰めて散々泣かせた後なのだ。深い眠りに落ちているレフラは身動き1つとる様子はなかった。
(私がここに居られないなら、レフラを私の腕の中へ置けばいい)
誰にも見せたくないほどに大切で愛おしい御饌ではある。だけど、独りが苦手なレフラに寂しいと泣かれることや、危険にその身が晒されることの方がイヤなのだ。
そうすれば、この世界のどこよりも安全な腕の中で守ってやれる。
(それに共に居ることもできるからな)
そんな自分の思いつきに満足をして、ギガイはようやく目を閉じた。
1度は手放すことさえ覚悟をした温もりが、揺蕩う意識の中でひどく愛おしい。
自分の命よりも大切な存在が今日も腕の中にある幸せを感じながら、ギガイの意識が眠りの中に落ちていった。
〔幕間 完〕
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