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【番外編】保護者同伴でごめんなさい 1
「ギガイ様、お願いがあるんですが……」
珍しいレフラからのおねだりだった。遠慮をしているのか、こちらを覗い見る顔は気まずそうな表情が浮かんでいた。
「お前から珍しいな」
ギガイが思わず口許を緩める。
誰よりも愛おしくて大切なレフラから甘えられている状況なのだ。不機嫌どころか平淡な表情のままでも居ようがなかった。
「何が欲しいんだ?」
いつだって持てる限りの力で愛しんで、甘やかしたいと思っているギガイに反して、自分を律しがちなレフラをこんな風に甘やかす機会などほとんどない。
ギガイから提案する贈り物さえ素直に頷くのは10回に1回あるぐらいだった。
願えば何だって手に入れることができるのだ。それこそレフラが求めるのならば、領土の拡大だって視野に入れても構わない。
この唯一の番のためにそれだけの力を手に入れたギガイにとっては、今の状況は正直、物足りないぐらいなのだ。
その中でようやくレフラからされたおねだりに、ギガイは機嫌良くレフラの身体を持ち上げた。
「欲しい物ではありません…」
「では、何かやりたいことでもあるのか?」
護衛につけた3人と耕している畑もレフラの希望からのものだ。またそんな風に何かしてみたい事があるのかもしれない。ギガイは言いよどむ様子のレフラの目を覗き込んだ。
「やりたい、こと…なのかも、しれません……」
「何だかハッキリしないな。で、何なんだ?」
「…会いたい人が、居るんです…」
途端に自分の中で機嫌が急降下していくのを感じていた。ちょうど目が合ったラクーシュにはそんなギガイの様子がハッキリと伝わったのだろう。
目の前で表情が青ざめて顔がハッキリと強ばっていた。
過去に、宮の外に出たいと言ったレフラを思い違いで泣かせた事を思い出し、取りあえず漏れ出そうな冷たい威圧を抑えてみる。
「…それは、誰だ? 跳び族の誰かか?」
報告書を見る限りはレフラがあえて会いたいと望むほど、親しい誰かがいたような様子はなかった。
「いえ、違います」
「じゃあ、嫁ぐ前に交流があった者か?」
御饌として特別親しい者を作ることを一族の中でも許されていなかったレフラが、他種族の者とそこまで交流があるのも考えにくかった。
「いえ、それでもありません…」
となると、ここへ嫁いだ後となる。
ずっと御饌の宮の中に置いていた大切な存在だった。それなのに、いつのまにそうやって知り合う機会があったのだろう。
「…それは、どこのどいつだ?」
零れ出た声音は酷く低かった。
「…ギ、ガイ、様…?」
「この宮は許された者にしか立ち入りができない場所だ。お前がわざわざ会いたいと望むのなら、宮に日頃出入りを許した者達ではないだろう。そうなれば、私の言葉に反しているということだ」
どうやってこの場所へ入り込んで、どいうつもりだったのかは分からない。だが見つけ次第、処分しても良いだろう。怒りは熱さよりも、冷酷な気持ちを呼び起こすようだった。
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