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保護者同伴でごめんなさい 6
「どうやら、その相手と喧嘩して飛び出した時にお前に迷惑をかけたみたいで、謝りたいらしんだよ」
背中にいたレフラの方を振り返れば、レフラがスッと前に出る。
そのままラクーシュとシュナルトの間で申し訳なさそうに佇む姿は、ただでさえ小柄なレフラの身体をますます小さく見せていた。
「この前は申し訳ありませんでした。顔におケガはありませんでしたか?」
思いもしない相手だったのか、シュナルトが困惑した表情を浮かべていた。
それでも、綺麗にお辞儀をしながら謝罪をしたレフラにようやく心当たりがついたのだろう。
「……あっ! あああ!! あの時の!」
レフラを指差したシュナルトが大きな声を張り上げた。
その声に身体をもう1度ビクッと跳ねさせるレフラに、ラクーシュがハラハラしてしまう。
(頼むから余計なことは言うなよ)
本当ならギガイに次いで、この黒族内では傅かれるべき存在なのだ。こんな風に頭を下げる必要もシュナルトが批判して良い相手でもない。
またキリッと痛んだ胃の辺りにラクーシュが手を添えた。
「この跳び族の子は、ラクーシュ様の知り合いだったんですね」
「あぁ、そうだな」
「…すみません、本当は私だけでお詫びに伺いたかったんですが、色々あって難しかったので、ラクーシュ様に今日はお願いしました…」
権威を笠に着るようなマネはしたくない、と言っていたレフラにはラクーシュの同伴も不満は残るのだろう。だが、完全に1人にする訳にはいかないのだ。そこは今回のレフラのお願いをギガイが聞くにあたって、譲歩させた所だった。
「…あの、おケガはいかがですか?」
「うーん、特にヒビとかのケガは無かったですよ。ただ痛かったですけどね」
はぁ、と大きく溜息を吐いたシュナルトにレフラがもう一度「すみません」と頭を下げた。
「鼻の辺りはケガしやすいから、蹴ったり、踏んだりしたらダメですよ。というか、そもそも、あんな風に逃げることがまずダメですけどね」
「…はい、仰る通りだと思います」
「俺達だって鬼じゃないですから、ちゃんと話だって聞きますよ、だから警備を振り切るマネは止めて下さい」
「はい、気をつけます…本当に申し訳ございません……」
また頭を下げて詫びるレフラに、シュナルトが雰囲気を和らげてふぅ、と息を吐き出した。
「喧嘩したんですか?」
「えっ?」
「あの時、旦那様と喧嘩しちゃって逃げ出しちゃったんですよね?」
「あっ、はい。そうです……」
さっきラクーシュが言った話のことだと思い至ったのか、レフラが慌ててコクコクと頷いた。
「慣れない土地に嫁いで大変だとは思いますけど、喧嘩したからって逃げたりしたらダメですよ。ラクーシュ様のお知り合いなら、旦那様も武官じゃないんですか?」
「はい、そんなものです……」
そう言って頷いたレフラの横でラクーシュはもうひたすらハラハラしているだけだった。
とりあえず必要な謝罪は済んだはずなのだ。
ラクーシュとしてはさっさとこの場を打ち切ってしまいたい。だけど、ここまで至ったレフラとギガイとのやり取りを思い返せば、下手をすればレフラの不興を買う可能性が高かった。
(本当は武官どころか、この黒族をまとめているギガイ様だって……だからもう余計なことは言わないでくれよ!!)
本当はそう叫んでしまいたいぐらいだった。
だけど、そんなことを思っていても言えないのだ。
何を言おうとしているのかも分からないシュナルトを、ラクーシュはレフラのそばで黙って見ているしかない状況だった。
「武官だと、いつ戦いの中で死んでしまうのかも分からないんですから、喧嘩したまま離れるのは止めた方が良いですよ」
だけどそんなシュナルトが告げたのは、レフラへの説教というよりはアドバイスに近いようだった。
「えっ……?」
その言葉の内容がけっこう衝撃的な内容だったせいか、レフラの動きがピタッと止まる。少し強張った表情のまま、レフラの目がわずかに見開かれたようだった。
「まぁ、これはうちの嫁さんの考えなんですけどね。でも、悪い考えじゃないと思うんですよ」
そう言って笑ったこの部下が、そう言えば確かに愛妻家で、夫婦仲が良かった事を思い出す。
「最後が喧嘩別れってイヤじゃないですか」
その言葉にレフラが真剣な顔をしてコクコクと頷いていた。
「だから、喧嘩して離れるんじゃなくて、離れる前にはどんなに喧嘩をしていても、ちゃんと抱き合って離れた方が良いですよ」
「分かりました。ありがとうございます。ちゃんと覚えておきます」
心に染みるものがあったのだろう。
レフラが大きく頷いて、もう一度綺麗にお辞儀をしてみせた。
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