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保護者同伴でごめんなさい 7

「じゃあ、もうそろそろ良いか?」 話が一段落した様子に、ラクーシュが場を納め始める。 本来ならこの場所は、祭りが近い今は特に人の行き来は多いのだ。いつまでも人払いしておくわけにもいかないだろう。 そして何よりも、ラクーシュとしてももう限界が近かった。 ずっと感じている胃の痛みと、それ以上に少し離れた右後ろの曲がり角からちょこちょこ感じている威圧感が実は辛くて仕方がない。 レフラやシュナルトが気付いた様子はずっとない。だがラクーシュにとってはずっと剣先を首元に当てられている感覚だった。 「はい、お忙しい中すみませんでした」 「じゃあ、旦那様と頑張ってください」 もう一度頭を下げたレフラにシュナルトがニコッと笑っていた。 「あっ、でも最後に俺からも良いですか?」 「なんでしょうか?」 「そういえばあの日にギガイ様の寵妃がいらっしゃったみたいなんですけど、分かりますか?」 「……えっ?」 「同じ跳び族の方みたいなんですけど」 その質問をしたシュナルトが悪い訳じゃないと知ってはいる。 (でもよ、何でお前はこんな最後の最後で、触れられたくなかった所をピンポイントで話題にしてくるんだ?) そう思えば恨みがましい気持ちにもなってしまう。そのままレフラの方へ目を落とせば、嘘を吐くべきか、本当のことを言うべきなのか。揺れ動いている様子が見て取れるようだった。 謝罪に来ながら不誠実なことはしたくない。でも最後までギガイの権威に頼りたくない。そんな思いが入り交じっているのだろう。 口を出すのを控えていたが、さすがに少しぐらい助け船を出すのは良いだろう。 「あー、悪い。それは言えないんだ、ちょっと口止めもあって」 「そうなんですか」 黒族の中では族長の言葉は絶対の効果を持っていて、疑問を挟む物でもない。だからシュナルトも、そう言われてしまえば、それ以上は追求する様子はなかった。 「それじゃあ私はこの辺で失礼します」 ラクーシュへ省略の礼を取って背を向けようとしたシュナルトに、レフラが慌てて声を掛ける。 「あっ、あの。もし、ギ……あっ、えーと…私の主人?が良いと言ってくれたら、またお話しさせてもらっても良いですか? 夫婦の秘訣みたいなお話しを、また聞けたら嬉しいです」 「ちょっと、待った!」 「まぁまぁ、ラクーシュ様。慣れない土地に嫁いで不安なんですよ。じゃあ、私も妻に聞いておきますね。できたらうちの妻と旦那様も一緒にお話しできたら良いですね」 「はい! その時はよろしくお願いします!」 嬉しそうにそう言ったレフラとシュナルトが笑い合っていた。 ギガイが当初心配していたようにレフラが傷付くことはなかったことは良かったはずだ。だけどこの状況も望ましいと言えるのかは分からなかった。 (えっ、こいつギガイ様とレフラ様とお茶でもするのか? スゴイ光景だな……何も知らずにいられて、良かったな……) 柄でもない胃痛を感じながら、ラクーシュは複雑な思いで見つめていた。

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