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保護者同伴でごめんなさい 8
「レフラ様、戻りましょう」
立ち去るシュナルトの背を見送っていたレフラに、ラクーシュが声をかける。間違えてもシュナルトに聞こえてしまわないよう、小さく絞った声だった。それでもしっかりと聞こえたのだろう。
レフラがコクッと頷いてラクーシュの方へ向き直る。
「ラクーシュ様、今日はありがとうございます。私のワガママに付け合わせてしまって、申し訳ございませんでした」
またキレイに頭を下げたレフラにラクーシュは小さく苦笑した。
前とは違って、もう何でも望める立場だとレフラも分かっているはずなのだ。それなのにこんなささいなことに、今でも遠慮をしてこうやって頭も下げてくる姿にいじらしさを感じてしまう。
用聞きとして拝命された時から、どのような状況の中でも、ひたすら真っ直ぐで誠実にあろうとするレフラの姿をずっと見てきている。その様子は心配でありながらも同時に仕える主として好ましかった。
「私達には遠慮はいりませんよ。レフラ様を支えて守るのが私達の役目ですから。でもそうやって心を配って頂けるレフラ様へお仕えできて嬉しいですよ」
だから、どれほど胃痛に苛まれていても、レフラへそう言った言葉は真実だった。
またやましくない言葉だからこそ、この威圧の中でも伝えきれるのだと、この先に居る主にも知って欲しいとは思っている。
「さぁ、ギガイ様がお待ちだと思うので急ぎましょう」
そうやって促せばレフラの歩く速度が早まった。
少しでも早く戻りたい気持ちが見えるようで、思わずラクーシュはその姿に笑ってしまう。
だけど実はそこの角を曲がった先には居る状況だった。
チリチリ感じる威圧を前に、戻った瞬間のギガイの反応が心配ではある。でも駆け寄ったレフラがすぐにそんなギガイを宥めてはくれるだろう。
だから、それまでのあとひと踏ん張りだ。
レフラに気付かれないように溜息を吐き出して気力を入れ直す。そのままレフラの速度に合わせるためにラクーシュも大股で歩き始めた。
2人分の足音と、ラクーシュの装備が擦れるカチャカチャというわずかな音だけが聞こえてくる。そんな音が聞こえてくるぐらい完璧に、この一帯の人払いがされていることが伝わってくる。
(本当に溺愛されていらっしゃるからな……)
歴代の黒族長の御饌への寵愛も並々ならないモノだったと聞いていた。それにも関わらず、黒族内でもその事実を知る者は少ない状態なのだ。
本当ならあの宮の外へ出すことも、誰かの目に留まることも、黒族長としては耐え難いことなのだろう。
(それでもレフラ様のお願いなら、最終的には飲んでしまうんだろうな)
それなら、あの部下との茶会はいったいどうなるのか。思い浮かんだシュールとしか言えない光景に、ラクーシュはまた苦笑した。
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