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保護者同伴でごめんなさい 9
「あっ!! ギガイ様」
「執務に一段落ついたから様子を見に来たが、終わったか?」
駆け寄ってくる身体をいつものように抱き上げる。気がかりだった事が無くなったせいだろう。少し引き攣ったラクーシュの表情とは反対に、こちらに向けられたレフラの表情はニコニコと晴れやかに笑っていた。
「少しだけ、注意をされました。でも、それ以上に良いお話を聞かせてもらいました」
「そうか」
そう言って頭をクシャリと撫でてやる。その手に心地良さそうに目を細めたレフラの姿にギガイもフッと目を細めた。
『権威を笠に着たくない』
レフラからのそんな強固な訴えだった。
この御饌を守る為だけに得た力なのだから、自分の権威でへし折ってしまえる相手ならばさっさとそうしてしまいたかった。それなのにそれが原因で逆に手元から離すしかなかった状況だったのだ。正直なところギガイにとっては面白くない状況ではあったのだ。
だが離れていた身体が嬉しそうに駆け寄ってきて、腕を伸ばしてくるその姿に、ささくれ立っていた気持ちが凪いでいく。
「ギガイ様、喧嘩したまま離れるのは止めましょうね」
「あぁ、そうだな」
喧嘩別れがどうこうと聞こえていた。そのことを言っているのだろう。ギガイとしては望ましい内容だったため素直に言葉に頷いておく。
だがその後に見せたレフラの表情はどことなく不安げなものだった。
「……」
「どうした?」
「……ギガイ様…私の見えない所で…死んじゃったら、イヤですよ…」
さっきあの男と交わしていた会話が原因で、万が一を考えてしまったのかもしれない。
自分を凌ぐ者などこの世に居らず、そんな自分に対して心配すること自体が本来ならば不敬だった。
だがレフラにそこまでの意図がなく、純粋にそばに居たいと望まれていることが伝わってくる様子なのだ。少し不安げに首筋に顔を埋めてくるそんな姿はあまりに素直で、ギガイの口元が思わず綻んだ。
「大丈夫だ、ちゃんとお前の元に帰ってくる。だからそんなに不安がるな」
頭にキスを落とした所で息を飲む音が聞こえてくる。つい今し方レフラ達が戻って来た曲がり角へ目を向ければ、見慣れない男が呆気に取られたような表情でこちらの方を眺めていた。
すでに誰かが近付いてきている気配だけは感じていた。そのためレフラの位置からは見えないように、立ち位置は調整済みだった。
ラクーシュに向かってその男を軽く顎で指す。
もともと人払いをしていた場所だ。それにも関わらずここに居るということは、これが例のシュナルトと呼ばれていた男だろう。
「はい、ちゃんと無事に帰ってきて下さいね」
何も気が付かないままレフラが首筋に額を擦り付けていた。そばに控えていたラクーシュが、その間にシュナルトの方へ突進し、その身体をもと来た道へ引き込んだ。
「あれ? ラクーシュ様?」
走り去った音に気が付いたのか、レフラが角の方を振り返る。だがもうそこには、誰の姿も確認できない状態だった。
「アイツには別な用事を言いつけてある。それが終われば戻ってくるはずだ。それまでは残りの2人と過ごしていろ」
「はい…ギガイ様はいったん宮まで戻られますか? それとも下まで降りたらもうすぐに戻られますか?」
レフラの手がキュッとギガイの袂を握っていた。離れがたく思っている時に見せるこの仕草は、レフラ自身気が付いていない癖だった。
ワガママは言えない、と今も堪えているはずなのだ。そんなレフラが見せる無意識のおねだりは、ギガイのお気に入りの仕草の1つだった。
「せっかくだ。お前を宮まで送ってから仕事には戻ろう」
「お仕事は大丈夫ですか?」
そんなことを聞きながらも、嬉しそうなレフラに対してギガイは「あぁ」と微笑んだ。
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