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保護者同伴でごめんなさい 10
2人の姿が遠ざかったことを確認して、シュナルトの口を押さえていたラクーシュがその手を外す。
「ラ、ラ、ラクーシュ様!い、いまのって!!」
「今のがどうした?」
「ギ、ギガイ様ですよね!?」
ラクーシュの方を振り返ったシュナルトがラクーシュの肩をつかんでガクガクと大きく揺さぶった。
ラクーシュが元々気さくで、あまり形式的なことを求めない質とはいえ、本来はそこそこ上の立場ではあるのだ。
(これ、俺以外の2人ならキレてるぞ)
そんなことを思いながら、取りあえずシュナルトの気が収まるまで揺さぶられてみる。
「あー、まぁ、そうかな?」
「いや、そうでしたよね!? 絶対に!?」
それはどう見てもパニックを起こしている様子のシュナルトへの、ラクーシュのせめてもの思いやりだった。
だけど男は一通り揺さぶった後も、ろくに余裕は残っていないのだろう。引き攣った顔は、もう笑いたいのか、泣きたいのかも、全く分からないような表情を浮かべていた。
「だから言っただろ、知り合いの嫁さんだって」
「確かに言ってました、言ってましたけど!! それがギガイ様を指すだなんて思うはずがないじゃないですか!!」
「まぁ、そりゃあそうだろうけどな。でも何でお前は戻って来たんだ?」
戻ってさえ来なければ、知らないままで居られたはずだったのだ。
「そう言えば名前を聞いていなかったと思って、確認しようと思っただけなんですよ……」
そう言って頭を抱え始めたシュナルトの肩を、ラクーシュが苦笑しながらポンッと叩く。
「俺、何も知らないまま失礼なこと言っちゃいましたよ」
「大丈夫だ、気にするな」
「いやいや!! ギガイ様の寵妃ですよね!? どう考えても大丈夫じゃないですよね!?」
「いや、今回はレフラ様たっての希望でお立場を隠してるからな。それにもし大丈夫じゃなければ、さっきギガイ様にお会いした段階で、お前は処分されてるよ。いまもこうやって無事な時点で、ギガイ様からのお咎めは無しってことだ」
真っ青な顔で泣き崩れそうなシュナルトに「良かったな」と笑いかければ、シュナルトがようやく詰めていた息を吐き出した。
「それにレフラ様に気に入られたみたいだからな、何かあれば庇って頂けるだろうから問題ないだろう」
そこまで言った後に「あっ!」とラクーシュが声を上げた。
「な、なんですか??」
「だけどそう言えば、さっきレフラ様とお茶の約束をしていたな?」
その言葉にシュナルトもようやくそのことを思い出したのだろう。また顔を真っ青にしながら「どうしよう…」と視線を大きくさまよわせていた。
「お前、旦那様とも、とかって言ってたよな? ギガイ様とお茶でも飲むのか?」
「いえいえいえ!! あの時は知らなかったからで、ギガイ様とお茶だなんて心臓がいくつあっても足りません!!」
「だけどレフラ様がその気なら、その可能性はあるからな」
「えっ……」
「ギガイ様はレフラ様には基本的に甘いからな、場合によってはホントにあるぞ」
これは脅しではなくギガイのレフラへの溺愛っぷりを見ていれば、考えられる未来なのだから仕方がない。
「取りあえずお前も武官だ。ギガイ様の呼び出しがいつあってもおかしくない立場なんだから覚悟はしてろ。だがもしギガイ様が立ち会わずに、レフラ様へ俺とか別な奴が立ち会って会う時には、お立場に気が付いていることを悟られるなよ」
じゃあ、そういうことだから、ともう1度肩を叩いて立ち上がった俺の足元で、シュナルトが呆然と座り込んでいた。
俺はその姿を見ながら、お茶会は諦めてやって下さい、とレフラ様に提案するしかないなと溜息を吐いた。
〔保護者同伴でごめんなさい 完〕
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