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第8 初めての事 2
伸びてきた腕に、手を掛け身体を跳躍させる。 そのまま目の前にいた武官の首元に下げられていた鈴を、レフラがすれ違いざまに回収した。
それは始まって数秒後の出来事だった。
その一瞬の状況に呆気にとられてしまったのだろう。固まった相手の背中を踏み台にして、四方から囲まれかけたレフラが一気に武官達の輪の外へと躍り出た。
「消えた!」
あまりのスピードの早さに、その輪の中にいる者達にとっては目の前から消えたように見えたのかもしれない。
レフラの背後からはそんな声が聞こえてくる。
もともとあの村を守るために鍛錬を積んだ幼少の頃。身のこなしや跳躍はさんざん訓練を繰り返していたのだ。
御饌として色々なことが禁止された後でさえも、村の中での孤独にツラくなった時に、こっそりと木の上から遠くを眺めることはレフラの楽しみの1つだった。
そのせいか身のこなしやスピードだけは、ギガイへ嫁ぐ時まで跳び族内でもずっと1番のままだったのだ。
見た目でだいぶ侮られていたのだろう。 躊躇いがちな表情でスタートしたはずの近衛隊の顔が、その一瞬で切り替わる。
中央に集まるようにしていたメンバーが、フィールド全体を見渡せるように、いったん四方に飛び散った。
見失ってしまったレフラの姿の確認をまずは優先した動きだったのかもしれない。
「居たぞ!!」
四方に飛んだメンバーから、そんな声が上がっていた。その武官達を避けるように、再び中央に走り込めば、そんなレフラを囲うようにパッと陣形が取られていく。
連携を取った戦い方は黒族が最も得意とすることは知っている。それでも打ち合わせも何もなく、スムーズに形体が整う様子にレフラが目を見開いた。
(このまま囲われたら逃げられない!)
包囲が閉め切られる前にと前方の人物へ走り込む。だけど2度目の油断は無いと知っている。さっきのように身体を踏み台に踏み込もうものなら、そのまま捕らえられてしまうだろう。
だから、ぎりぎりその武官の手が届かない地面を強く踏み込んだレフラは、その反動で後転飛びに切り替えた。そのまま着地した勢いで今度は横に飛び退いていく。それだけのスピードについてこれなかった武官達の間をレフラは無事にすり抜けた。
背後で同じ要領で進行を変えれば、呆気なく2人の武官の背後が取れた。そのままその2人の武官の背中越しに、鈴を奪い取っていく。
残りはあと何名なのか、時間もどのぐらいあるのだろう。
そんなことを考えながら、着地した勢いで振り返った先に武官がもう1人立っていた。
周りよりも若く見えるような武官だった。もしかしたら、崩された形体への反応が遅れてしまったのかもしれない。
今まで向かい合った武官の中で1番無防備に見えている。その胸元の鈴に向かってレフラが走り込んだ直後のことだった。
(えっ、なに……?)
手が届く範囲に入り込むよりも先に、不意に身体を纏う重力が変わった。始めはそんな違和感だった。
その直後になぜか恐怖心と重苦しい重圧が続いていた。正体の見えないその感覚に身体だけは正直に、ビクッと大きく跳ね上がる。
まるで身体を押さえつけられたようだった。見えない刃を喉元に食い込まされているような、そんな命を|脅《おびや》かされる恐怖が突然レフラを苛んでいた。
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