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第9 初めての事 3
そのまま身動きが取れなくなったレフラの方へ、その武官の腕が伸ばされてくるのが見えていた。
(や、イヤだ、怖い、ギガイ様ーーー!!)
思わずギュッと目をつぶる。その身体が一瞬で後方へと引き寄せられ、そのままフワリと持ち上げられた。
馴染んだ感触と温かさが、レフラの身体を包み込む。
怯えて強張った身体はすっかり冷えきっていたのだろう。触れ合う所から体温がゆっくりと伝わってくる。
その温もりに励まされるように|恐々《こわごわ》と目を開いて見上げれば、ギガイの蜂蜜色の目がレフラを心配げに見つめていた。
どこよりも安心できる場所だった。ギガイの腕の中に収まっていることを確認した身体から、力が抜けて震え出す。
「こ、こわ、かった…ぎ、がい、さま……こわかった…」
「あぁ、もう大丈夫だ」
耳元からも聞き慣れたギガイの声音が聞こえてくる。それと同時に身体をさする掌も優しくレフラを宥めていた。
「どういうつもりだ、威圧は使うなと言ったはずだ」
だが背に添えられた温もりの優しさに反して、次に聞こえてきた声音はあまりに冷酷な響きを持っていた。
恐る恐る、視線をギガイが睨む方へ向けてみる。
いつの間にいつもの3人も訓練棟へ来ていたのだろう。
エルフィルとリランの2人の剣が、レフラが最後に見た武官の喉元に左右から突きつけられている状況だった。その上、ギガイに抱えられているレフラの前にも、ラクーシュがレフラを庇うように剣を構えて立っている。
そんな初めて見るひどく険しい表情の3人の姿に、レフラは驚いて目を瞬いた。
「答えろ。どういうつもりで意に背いた」
「も、もうしわけ、ございません…あや、まって……とっさに行って、しまったので、本当に、意に背くつもりが、あった訳では、ございません……」
やはりまだ周りと比べれば、だいぶ若く見える武官だった。真っ青な顔でガタガタと震えている様子からは、嘘を吐いているようには思えない。
いまだ怯えは残っていた。それでも、そんな武官の様子にレフラの胃の辺りがキュッと引き攣っていく。
だけどそんな若い武官の様子を前にしても、ギガイだけではなくリラン達の張り詰めた空気さえ緩む様子は見られなかった。
「話しに成らないな。貴様は同じようなことを戦場で言って通じると思っているのか」
ギガイの言っている言葉は理解はできる。
1つの連携ミスが下手をすれば命に関わることだってあるはずなのだ。命令に反した者が許される前例を作ることも好ましくないことだって分かっていた。
レフラと違ってギガイは多くの民の命を背負っているのだ。
だからいくら冷酷に見えようとも、覇者として立つギガイが決めたことなら、黙って受け入れるつもりはある。
それでもそんなレフラが戸惑ってしまうほどに、顔を青ざめたその武官は、あまりにまだ若く未熟に見えていた。
だからこそ、レフラはギガイへ聞かずにはいられない状況だった。
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