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第11 優しい人達 1

「あれ? ここは…?」 「目が覚められましたか?」 聞こえてきたリランの声にレフラが横に顔を向ける。 いつの間に戻ってきていたのか、まだ見慣れないギガイの執務室のようだった。 「まだ、横になっていてください」 起こそうとした身体をそばにいたリランの腕に押し止められて、レフラはまたソファーの上に横になる。その身体を心配げにラクーシュとエルフィルも横から覗き込んできた。 「あれ?」 いつもならこういった時には必ずそばに居てくれていたギガイの姿が見えなかった。思わずキョロキョロとしてしまう。 「ギガイ様はいま隣の部屋で白族の族長と会談中です」 何も言ってはいなかったが筒抜けだったという事だろう。レフラのそんな姿に3人が表情を綻ばせて教えてくれた。 「いえ、違うんです。ちょっと珍しいな…と思って…」 少し恥ずかしくて、思わず言い訳をしてしまう。そんなレフラに3人が分かっている、という顔を向けてくるのが居たたまれない。レフラは思わず掛布の端を弄りながら、視線をうろうろと彷徨わせた。 リランが横に膝をついて、そんなレフラに目線の高さを合わせてくる。 「ここでしたら、ギガイ様もすぐ隣にいらっしゃいますし、私たちもおそばに付けますから」 見下ろさないようにと配慮をしてくれたのだろう。つられて3人の方に向き直ったレフラへ視線を合わせながら、リランが安心させるようにそう言った。 それにならったラクーシュやエルフィルもすぐ横へと膝をつく。 「宮でお休みいただくよりは安全面やレフラ様のお気持ち的にも良いんじゃないかってなったんです。あんなことの後ですし」 「……あんなこと?」 いったい何があっただろう? ラクーシュの言葉にレフラが小さく小首を傾げれば。 「衝撃で気を失われてしまったんですよ。覚えていらっしゃいませんか?」 エルフィルが心配げな顔で告げてくる。その言葉にようやく気を失う直前のことを思い出したレフラが、あっと目を見開いた。 確かぐるぐると目眩がしていた中で、必死にギガイへ自分を理由とした厳罰化だけは止めて欲しい、と懇願していたはずだった。その後のギガイの言葉にホッとして、そこから先の記憶が途切れている様子なのだ。きっとそこで気を失ってしまったのだろう。 部屋の中に微妙な沈黙が走っていく。 レフラは気まずさを感じながら、そっと3人の方を窺い見た。 「思い出されましたか?」 聞こえてきた声はリランの声なはずだった。でもいつもよりもずいぶん固い声音のリランは、少し厳しい顔をレフラの方へ向けていた。 「は、い……」 始めて向けられたその表情にレフラはゴクッと唾を飲む。 今日までずっと柔らかな顔だけを3人からは向けられていた。小隊長を担っていただけの人達なのだ。それだけのはずがないのに、あの武官へ剣を向けた時の厳しい顔や気迫を目にするまで、3人のそんな姿を思いもしていなかった。 「あまり無茶はされないでください。私たちはレフラ様をお守りするためにおりますが、レフラ様があのように体調をムリされてしまいますと、私どもの存在の意義自体が無くなってしまいます」 だいぶ体調が悪い中を押して意識まで無くしてしまったのだ。あの時レフラを守ってくれていた3人の姿を思い出せば申し訳ない気持ちになってくる。 「おい! リラン!」 慌てて止めようとするラクーシュにリランが振り返った。 「お前らだって心配だろう。日頃お守りしている方が無茶をされれば不安にもなる」 そのまま告げたリランの言葉に、エルフィルも思うところがあったようで、苦笑をしながら頷いていた。 そんな3人の姿を横になりながら、目を見開いて見ていたレフラの目に薄らと涙が溜まっていく。 その涙を見たリランがギョッとしたように途端に慌て始めていた。 「えっ、あ、申し訳ございません。そこまで怒って言っているわけではないんです。だから、あの、すみません」 「いえ、違うんです。私の方こそ申し訳ございません。ただ、嬉しくて……」 慌てて涙を拭いたレフラがフフッと3人へ微笑んだ。3人からは「嬉しいんですか?」と戸惑った表情が返ってきた。 「こうやって誰かに心配してもらえることが嬉しくて……すみません、次からはちゃんと気をつけます……ありがとうございます……」 「…はい、そうして下さい。レフラ様は無茶をしがちで、本当に心配になるんですよ」 一瞬だけ何とも言えない表情が浮かんだように見えていた。でもすぐに表情を柔らかい笑みに塗り変えてそう言ったリランの言葉に、尋ねるタイミングを逃してしまう。 しかもその後ろに残りの2人が頷く姿も見えているのだ。レフラは叱られているはずなのに、こそばゆくてまたフフッと笑ってしまった。

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