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第13 優しい人達 3

一瞬、驚いた表情を向けてきたリランへレフラが小首を傾げた。 「どうしましたか?」 何を驚かれたのか分からない。だけど苦笑しながら掛布を整えられて、レフラはその掛布の端をギュッと握った。 「いえ、何でもございません。それからあの者については、ギガイ様へ背いた為だけではございません。あの威圧が問題なんです」 「あの威圧がですか?」 「あれは少し特殊なパターンなんで、レフラ様もギガイ様が周りへ向けられたのを1度も感じたことはないと思いますよ」 「はい、何だか違うってことだけは分かったんですが……」 「あれは普通、本能的に恐怖を感じた時の自己防衛の時か、激昂して相手の首根っこを押さえつけてマウントを取ろうとした時なんかの威圧です」 「まぁ、どっちだったとしてもろくなもんじゃないですよ」 「おい、ラクーシュ」 「いや、そうですよ。前者なら、武官としてあまりに不甲斐ないですし、後者なら未熟すぎる上にギガイ様の意向に背いてレフラ様相手に危害を加えるような行為ですから。しかも今回は前者であるよりは、後者の理由だった可能性が高いですからね。だからあのまま引導を渡してやろうかと思ってたんです」 『ろくなもんじゃない』と口を挟んできたラクーシュを咎めようとしたリランを、エルフィルがさらに言葉を挟んで押し止める。 「確かにそうだが……」 そう言って、押し切られたようにリランがそのまま黙り込んだ。 何も分かっていなかった自分に、レフラは気落ちをしてしまう。 「……申し訳ございません。ただ、どうしても1度の失敗で全てを失ってしまうのが悲しく思えてしまって……私も至らない御饌で、ギガイ様にいっぱい時間を与えてもらえている状態なので…」 ハッキリと3人へは言えないが、御饌として務めとなる交わる行為さえも、こなせるようになったのは最近からのことなのだ。 そんな自分の姿に重なってしまったのも正直なところだった。 「いや、でもレフラ様が謝られることではございません。レフラ様は過剰な処罰の回避は求められても、口を出された訳ではありませんから。責めているように聞こえてしまったのでしたら申し訳ございません」 落ち込んでしまった雰囲気が伝わったのか、エルフィルが慌てたようにそう言った。 「確かに自分の実力を過信して暴走しがちなのは若い武官にありがちなことですからね。しかもあの武官はそれが強かったみたいですから」 あながち間違いな対応ではなかったのだと、そう言ったエルフィルに。 「そんなプライドをお前が徹底的にへし折りやがったけどな」 ラクーシュがどの口でそれを言っている、とでも言うように呆れた声で突っ込んでくる。 「近衛隊の自分ってやつをずいぶん誇りに思っていたようだからな。確かに強くなければ近衛隊にはなれないが、別に弱いから警備隊にいるわけじゃないってことを分かっていなかっただろう」 レフラが意識を失ってから、きっと何かがあったのだろう。エルフィルの声はひどく不快そうな様子だった。 「そこんところも含めて教え込んでやっただけだ。レフラ様にあんな威圧を向けておいて、ここまで温情をかけてやったんだ。これぐらい当然の処置だろう」 それのどこが悪いんだ、とエルフィルが開き直って言い放つ。 正直今までは良くリランに『この筋肉バカ!』と怒鳴られているのはラクーシュだったのだ。だから1番無鉄砲なのは彼だとずっと思っていた。 それなのに。 「だからレフラ様もそんなに気にしなくても大丈夫ですよ」 そうやってニコッと笑って見せる様子に、レフラは顔を引き攣らせた。 今日初めて見たそんなエルフィルの姿は、この中で1番危ないのは、もしかしたら彼なのかもしれないと、レフラの認識を改めさせるのに十分だった。

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