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第36 徒花の毒 1

「それでは今回取り扱わせて頂くハーブや薬草等のうち既に黒族内にてお取り扱いがあったこちらが25%の関税で、このリストの物が15%、新しいこちらについては10%ということでございますね。あと、今後のお取引の価格はこちらの表に載っている価格ということでお間違いないでしょうか?」 白族の書記官らしき男が最後の契約内容の照らし合わせを行っていた。全く同一の物を2部準備して、内容に相違がないかをアドフィルが確認する。最後まで照らし合わせた内容に書類上も問題がないことを確認して、リュクトワスの方へアドフィルが目を向けた。 「あぁ、それで構わない」 リュクトワスがその視線に対して鷹揚に頷いた。すでにギガイによる内容の精査および応否の判断は事前の書類で終えている。それ以外の状況が生じればギガイ自身で対応も行うが、今回のように結論有りきのやり取りについてはギガイはただ黙ってそこにいるだけだった。 後のやりとりは全てリュクトワスとアドフィルで事足りるのだ。必要のない労力をわざわざギガイが割くことはない。 2人で処理は可能なのだから、自分抜きでやらせてしまいたい気持ちはあった。突発の事態に備える必要があるため仕方ないと思いつつも、正直なところ部屋を満たす茶の匂いさえも煩わしかった。 御饌の宮の中に漂う青葉の匂いやレフラから漂う清涼な花の香がギガイにとっては安らぐ匂いなのだ。連日付き合う羽目になっている、こんな人工的に焚きしめた匂いはうんざりしてしまう。 (それにレフラもこの会談をまだ気にしていたからな) そう思えばなおさら、こんな会談は少しでも早く終わらせて、レフラが待つ執務室へと戻りたい。だが、良くも悪くも決まった流れを辿った最後の会談は、ギガイが予想していた時間とほとんど差がなく終わった。 (全くムダな時間だったな) それはトラブルが生じなかったということに他ならないのだから、本来は望ましいことだろう。だがレフラとの時間をろくに割けないぐらいに多忙な中での会談なのだから。発言さえろくに必要がなかった状況にそう思ってしまうのは仕方がないことだった。 ギガイがスクッと立ち上がって、執務室へ戻るためにそのまま踵を返して歩き始める。 「ギガイ様、お待ちください」 呼び止めた白族長のナネッテが近付いて来た。 「今日は何かお急ぎですの? このようにお会いできる今年最後の時間ですのに、お別れのご挨拶もさせては頂けませんの?」 一般的な黒族の女性よりもわずかに小柄とはいえ、ナネッテはレフラよりは長身だった。腕を伸ばしていつものように首筋に触れようと、その白い腕を|嫋《たお》やかに伸ばしてくる。 だが、今日はその手が首筋に触れる前に、ギガイは煩わしいと払いのけた。 「触るな」 ギガイにすれば拒絶する必要がなかったため好きにさせていただけとはいえ、何年にもわたって受け入れられてきたように見える状態だったのだ。その手が叩き落とされたことはやはり驚きだったのか、ナネッテが払われた手とギガイの方を目を見開いて交互に見つめていた。

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