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第41 徒花の毒 6

「せっかくお前から強請ってくるのなら、堪能しても良いだろう」 泣かせてしまったことは悪かった、と思っている。それでも失うことを覚悟した日々を思えば、レフラの方から自分の意思でギガイを求めてくる姿が胸にくる。 甘えるような仕草はもちろんのこと。こうやって拗ねた表情やどことなく幼さを感じる雰囲気さえ、ギガイ以外へは向けられない。 レフラが向けてくる態度の全てがギガイを特別だと語っていた。 それがギガイには嬉しい。そう嬉しくて、幸せなのだ。はっきりとそう思ったところで、ギガイは笑い出したい気持ちになった。 今までならろくに動かなかった感情だった。 わずかに不快や苛立ちを感じることがあったとしても、波立つほどでもなく、激高することなんて存在もせず。ましてや嬉しいだの、幸せだの、そんな曖昧なものを感じることなど全くなかった。 そんな自分に色々な感情を与えてくる。ギガイにとって何よりも大切な存在だと、改めて噛み締めながら抱き上げた。 「それにしてもお前は本当に軽いな。簡単に壊れてしまいそうで、時々不安になる」 つねづね思っていたことだが、レフラの身体はあまりに軽い。片手で十分に支えてしまえるぐらいの軽さなのだから、時々たまらなく心配になってしまう。 そんなギガイを一瞬きょとんとした顔で見つめたレフラが、なぜかキュッとギガイの頭を引き寄せた。 (??? なんだ???) なぜ心配をしたはずの自分が抱え込まれているのか。突然のレフラの行動の意味が分からない。そのままレフラのやりたいようにさせているギガイの周りからは、臣下達の躊躇った雰囲気が伝わってくる。 それでも日々のやり取りを見ているせいで、周りの者達も慣れてきてはいるのだろう。始めの頃のような息をのむ様子は感じられないまま、黙って成り行きを見守っている様子だった。 「アドフィル様、この後はまだ御用は詰まっていらっしゃるんでしょうか?」 「ギガイ様のでございますか?」 「はい」 驚いた雰囲気と戸惑うような雰囲気がアドフィルの方から漂ってくる。 レフラがこうやってギガイの仕事の事に直接口を出してきたのも初めてなら、ギガイを飛び越えて護衛の3人以外へ話しかけたのも初めてなのだ。答えてしまって良いのか、躊躇っているのだろう。 「なぜお前は私の予定を私ではなく、他の者に聞くのだ?」 レフラの腕の中から顔を上げる。そのまま抱えた身体を揺すって、アドフィルの方へ向けられていた視線を自分の方へと向け直す。 誰が聞いてもギガイの声は不満そうに聞こえる声音なはずなのだ。それなのに。 「ギガイ様だと無理をしたご回答をされそうだからです」 ギガイへ答えるレフラの声は、全く堪えていない平然としたものだった。 「どういう意味だ?」 突然その腕に抱え込まれたことも、珍しくギガイの予定へ口を挟んできたことも、そしてその質問の意図も分からないことばかりだった。 ちゃんと説明しろ、と視線だけで訴えれば、レフラが困ったように眉を寄せた。 「だって。もしこの後も予定が詰まっているとして、私が予定を空けて欲しいとお願いしたのなら、どうされますか?」 「もちろん調整させよう」 「じゃあ逆に、予定に余裕があるとして、ギガイ様へ休憩を取られては? とご提案をしたのなら、どうされますか?」 「私の休憩ならば不要だ」 「ほら、そうなってしまうじゃないですか」 「……」 それの何が悪いのかは分からなかった。でもこの答えが気に入らない、とレフラの顔にはハッキリ書かれているのだ。 「だから、アドフィル様にお伺いしたんです」 そう言ってもう1度アドフィルの方へ向けられたレフラの視線に、ギガイは取り合えず言葉を飲み込んだ。 ただ話しの矛先になっているアドフィルだけが、このまま答えてよいものか、と伺うような表情をギガイの方へ向けていた。無理に隠すほどのことでもなく、レフラの機嫌を損ねたいわけでもない。 告げられた理由は腑に落ちていない状況のままだったが、取りあえずギガイは肩をすくめつつ頷いた。

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