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第58 抱いた悋気 15
緊迫感も必死さも全く伝わらないような間抜けな音。その音に一瞬キョトンとした表情になったギガイが、吹き出した。
「うぅ~~!!」
唸り声で離して、と訴えながらレフラが大きく首を振る。
締まりのない音に加えてギガイに盛大に笑われたのだ。かぁ、っと恥ずかしさで顔も身体も一気に熱くなっていた。
(ギガイ様が引っ張っていらっしゃったからなのに……)
盛大に笑うギガイを前にして、そんな恨み言の1つだって言いたかった。でもレフラとしては今は少しでもギガイの機嫌が良くなって、この後に手心を与えて欲しいのだから。しぶしぶ。本当にしぶしぶ、抗議の言葉は飲み込んでおく。
「嫉妬を煽ればどうなるか、これを機に刷り込んでおけ」
それなのに聞こえたのは、そんなギガイの楽しげな言葉だったのだから、堪らない。
これまでだって、時折ギガイによって与えられる意地悪な性戯に、泣かされることは多かったのだ。それなのに、今は手加減さえ『諦めろ』なんて言われてしまった状態だった。
この後、いったいどうなってしまうのか。レフラは想像をして、ブルッと身体を震わせた。
「あぁ、そうだ。道具でも使ってみるか?」
「……どうぐ、ですか?」
どうぐとは。道具のことだろうか?
いったい何をするための道具だろう?
こんな場面で登場するような道具をレフラは1度だって見たことはない。
でもこのタイミングで聞かされるような物なのだから。レフラにとっては、あまり有り難くない物なのだろう。
かと言って、強硬に断ってギガイの機嫌を損ねたり、むしろ興味を引いても困るのだ。
「い、いえ、遠慮を致します。ご準備にはお手間も掛かりますから」
「そうか」
「はい」と答えながら、レフラは何でもないように振る舞った。
「だが、それは大丈夫だ。寵妃の存在が露呈して以降、貢ぎ物の中にそういった物もあるからな」
いや、それはレフラにとってはちっとも大丈夫なことではない。
それに加えて、贈り物の中にそういうことに関係する物があるというのだ。聞こえてきた内容のひどさに、どうにか浮かべていた笑顔は途端に引き攣ってしまっていた。
(他の方々にそういう事を想像されている、ということですか!!)
知らなければ平気でいられただろうけど。知ってしまった以上は、恥ずかしくて仕方がなかった。レフラとしては、穴があったら今すぐにでも入りたい。そしてしばらくそこに閉じ籠もっていたかった。だけどそれ以上に次に続いたギガイの。
「仕置きをすることがあればその際にでも使うか、と思っていたが、ちょうど良い機会だ」
そんな言葉に、そんな物を贈られることの信じられなさやら、恥ずかしさやらで、もう開いた口さえも塞がらなかった。
「え、ええ?? 仕置き、に使うような物なんですか?? 」
「いや、好き好きがあるからな。一概にそうとは限らないが、お前になら十分なるだろうな」
と言うことは、レフラにとっては好きには当たらないことだと、すでに分かっているような物なのだ。ざっと血の気が引いていくような気がして、レフラはギガイの胸元をグイグイと引っ張った。
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