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第59 抱いた悋気 16
「待って、待って、ギガイ様、待って!!」
「何を待つんだ?」
レフラのするままになっているギガイの服が、手の中でグシャグシャになっていく。
不敬ものな態度で、周りから見れば青ざめるような行動だろうけど。でもギガイはそんなことを気にする様子もなければ、どこか面白がっている雰囲気だった。
(この状態のギガイ様に訴えても、まともに取り合って頂けないのは分かってますが……)
だからといって、スンナリ諦めることもできないのだ。
もちろん、ギガイが色々堪えてくれる代わりに求められている時間なのだから。それを思ったら本気の拒絶なんて出来なかった。でも。
「せめて、心構えをさせてください……!」
「だからこうやって事前に言っているだろ? 宮に着くまでに、覚悟を決めろ」
「そんなぁ……」
ただでさえ不安だった所に追加された道具なのに。そんなに短い時間でどうやって心構えが出来るのだろう。
情けない声を出したレフラをまたギガイがクツクツと笑った。
「お前は私だけの御饌だ。ちゃんと私のために頑張ってくれるだろ?」
「うぅ~~、頑張ります……でもやっぱり、少しぐらいは、手加減をして欲しいです……」
「そうだな……なら、1回につき使う道具は1つにしてやろう」
その言葉に、むしろ幾つも使う気だったのか、と思わないでもなかった。だけどせっかく得られたせめてもの温情を無碍にすることはできないのだから。
「あり、がとう、ございます?」
これはお礼を言う所なのか、ものすごく疑問に思いながらも撤回されては堪らないので、とりあえずお礼を言っておく。
「あぁ、そうだな。感謝をしていろ」
向けている表情がよほど微妙な表情なのか、また喉元で笑いながらギガイの指が、フニフニとレフラの頬を摘まんだ。ひとしきり摘まむ感触と、表情を楽しんだ様子のギガイが不意にその笑いをおさめて、レフラの頭をクシャリと撫でた。
「行為の中では、私だけを見て、感じて、求めろ。だが、もしも耐えきれなければ、前のようにあの言葉を使え」
「聞いて、くださるんですか……?」
「当たり前だろ。これでお前に嫌われたら意味がないからな」
何を言っているんだ、というように、そう言ったギガイは、心底呆れたような様子だった。
「だからそこは安心しろ」
あやすようにポンポンと背中を撫でられる。
その言葉に、そうか、聞いてもらえるのか……、と力が抜ける。レフラはようやく握りっぱなしだったギガイの胸元から手を離した。見る影もないぐらいグシャグシャになった服を掌で直して、レフラは「はい……」と頷いた。
「では、そろそろ走るぞ」
大きな皮のマントをギガイが被り、レフラをその内に包み込む。
「宮への移動は、雨季の時期は厄介だな」
「宮の外は、だいぶ広いですからね」
スッポリ抱え込まれた状態が何だかおかしくて、思わずクスクス笑ってしまった。
「そうだな。ほら、舌を噛まないように黙っていろ」
「はい」
通路の最後の扉を開けば、嗅ぎ慣れた濡れた青葉と石と土の匂いが漂ってくる。そして触れ合うギガイの温もりと匂いなのだ。
日々レフラを癒してくれるものに包まれて、レフラの緊張が解けていく。
戻った後の事を思えば胃の辺りがキリキリするけれど。
それでも帰ってきた安堵感に、レフラはホッと力を抜いた。
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