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第71 雨季の終わり 3
舌に触れる甘さと清涼感。コロコロと転がす度に薬の苦みが掻き消されて、口の中いっぱいに広がる味に、レフラは口元をフワッと緩めた。
相変わらず腹は立っているけれど。甘くて美味しいその味は、嫁いでからずっとギガイが手ずから与えてくれる味だった。心の中がポカポカするような、幸せを感じさせてくれる味なのだから、思わず顔も綻んでしまう。
「これも薬の1つなんだがな」
その頬をギガイが指で突いてくる。
「お前は甘い物を食べている時は、本当に幸せそうだな」
ギガイへ嫁いでから食べるようになった甘味は、初めて得られた愛情や温もりと同じなのだ。甘い物だから幸せな訳じゃない。
(でも、悔しいから、教えてなんてあげません)
ククッと楽しそうに笑うギガイに、レフラが何も言わずにツンッと顔を背けて見せた。視線さえろくに合わせないそんなレフラの態度に、さすがにやり過ぎた、とようやく分かってきたのかもしれない。
「この後、お前が好きなデザートをいくつか手配してやる」
顔を背けたままのレフラの頭を、ギガイの手が何度も優しく撫でてくる。一転して、レフラの機嫌を取るような、どことなく伺うような声音だった。
(また、そんな子どもの機嫌を取るみたいにして……)
まだ不機嫌です! といった表情を崩さないまま、レフラはチラッとそんなギガイの方へ目を向ける。据わりの悪さに反して、分かりやすくレフラの機嫌を取るギガイの態度には、こそばゆさも感じていた。
それにギガイは甘い物が好きなレフラのために、日頃から何かと手配をしてくれる。だけど、レフラが特に気に入った物なんかは、肉や魚と引き換えにしか、最近では手配をしてくれなかった。
レフラを心配しているからこそ、肉や魚をできるだけ避けようとするレフラに、しっかりと食事を摂らせたいのだと分かっている。
(まぁ、あまりに子ども扱いされているみたいで、抗議した時には酷い目にも遭いましたしね……)
過去に1度だけ不満をぶつけた時には。
『それならまずは、頑張って食べろ』
そう言われて、肉や魚を大量に出されてしまった上に、ある程度は食べるまで解放してくれなかったのだから、あの時は本当に大変だった。
でもこうやってデザートで懐柔しようとするギガイから、日頃のギガイの心配や、自分の機嫌を伺う様子が見えるのだから。そんなギガイの懐柔策を、レフラも冷たく拒否することはできなかった。
それにレフラだってちょっと怒ってはいても、本気で仲違いをしたいわけじゃない。ギガイがケガをした直後に、意地を張ってだいぶ寂しい思いをしたことも、まだ記憶に新しい。
せっかくこうやって穏やかに一緒にいられるのだから。あんな風に時間をダメにしたくなかった。
どちらにしても長く拗ね続けることもできないのなら、この辺で手を打っておいた方が良いだろう。
レフラは広げた両手を見せながら、ギガイの方へ振り返った。
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