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第72 雨季の終わり 4
「……いや、待て。いくらなんでも10個ということか……?」
レフラの両手をしばらく黙って見つめていたギガイが、まさか、というような声で、額を押さえながら確認する。レフラはコクッと大きく頷いた。
「それじゃあ、食事が入らないだろう」
「夕餉で……ゃんと、食べ…す……」
だってレフラの機嫌を取るために準備をしてくれるなら、日頃は絶対に言えないような子供染みたワガママを、1度は言ってみたかった。
少しドキドキしながら、レフラはギガイの顔を仰ぎ見た。
「……分かった」
溜息混じりに了承したギガイが「だが、今回だけだからな」と念押しをしてくる。
「ギ……イ様もダ……です……! あのま……、寝ちゃ……なんて、ダメ……す!」
そんなギガイの念押しに対して、擦れて所々は音さえ上手く出てこない声で、レフラも同じようにギガイへ『今回だけ』だと説教をした。
「なるほど、お前の怒りはそっちの方か」
ギガイが一瞬だけおかしな表情を浮かべて、その後にクツクツと笑い出す。何がそんな風にギガイを笑わせたのか、レフラには分からない。でも、自分の言葉に笑っていることが明らかなギガイへ、ムッと眉を寄せて見せた。
「悪かった。今朝のようなことは控えよう。とりあえず、せっかく久しぶりに得た休みだ。機嫌を直してくれないか?」
でもそんなことよりも。聞こえた言葉に驚いて、レフラはギガイのローブを握った。
「……っ!? や、す……なん、で……か?」
「休みか? と聞いたのか?」
その言葉にコクコクと頷きながら、レフラの身体は期待で熱くなって、ギガイを見つめる目にも力が隠っていく。
「あぁ。明後日には祭りが始まる。そうなればまた当分忙しくなるだろうからな」
やっぱり聞き間違いじゃなかったのだ。
今朝はずいぶんゆっくりと過ごしているから、間に合うのかと、少し心配をしていたけれど。でも、こうやってギガイとのんびり過ごす時間が嬉しくて、なかなかレフラの方から切り出せなかったのだ。
「嬉しそうだな」
思わずニコニコと笑ってしまう。そんなレフラの頬を包み込んだギガイの掌に、レフラは機嫌良くスリスリと頬を擦り付けた。
「でも、まつ……おわ……まで、いそが……って?」
でも祭りが終わるまでは休みなんて、取れない状況だと聞いていたのだ。
(本当にお休みをとっても、大丈夫なんでしょうか……?)
レフラのことが絡むと、ギガイが無理をしてしまうことは、もう十分過ぎるぐらいに分かっている。久しぶりのお休みはとても嬉しいけど。それだけに、どうしても無理をしていないか、心配だった。
(まぁ、無理をしたとしても、ギガイ様は飄々とこなしてしまうんでしょうけど……)
気力、体力、能力共に誰よりも秀でている主なのだから。ギガイ自身もどうにかできると思うからこそ、取ったお休みなのだろう。それなのに、自分がこんな風に心配してしまうのも、出過ぎたことなのかもしれない。
それでもレフラはギガイの唯一の御饌なのだから。ギガイにはやっぱり無理をして欲しくなかった。
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