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第77 雨季の終わり 9

(こういった本は、あまりお読みにならないんでしょうね) 確かに、この主の手の中にこんな本があったとしたら。それをいつもの鷹揚な姿で読んでいたとしたら。 あまりに似合わないような気がして、より一層おかしさがこみ上げてくる。レフラはどうしても笑いを抑えることが出来なくて、クスクスと笑い続けてしまった。 「……やはり、こういう本は苦手だ。すまん、邪魔をした……」 少し不貞腐れているようにも、どこか気まずそうにも見える表情で、ギガイが頭を掻いてレフラの身体を横に退けた。 「ギガイ様?」 怒らせてしまったのかもしれない。レフラが慌てて笑いを引っ込めて、ギガイの方を伺い見た。 「何か別な本を探してくる。お前はそこで読んでいろ」 そんなレフラへ肩をすくめながら苦笑をしたギガイが、そのまま垂れ布の向こうへ歩いていった。 このまま待っていた方が良いのか、どうなのか。 しばらく本と垂れ布を交互に見比べていたレフラだったが、自分の気持ちのままに持っていた本をパタンと閉じた。 だって2人でゆっくりと過ごしたかっただけで、1人で本を読んでいたいわけじゃない。 日頃からギガイはとても忙しいのだ。こんな風にゆっくりとした2人の時間を、またいつ取ることができるのか分からないのだから。 カウチから降りたレフラは、垂れ布の向こうへ消えたギガイの姿を追いかけて、書庫へ戻っていった。 楽しい時間ほど過ぎていくのは、どうしても早い。そのまま2人で本を読んだり、お昼寝をしたり、そして時々キスを交わしていれば、あっという間に一日が過ぎていった状態だった。 昼餉の時は目の前に大量に並べられたデザートを前に、目を輝かせるレフラに反して。その量に、ギガイの顔はハッキリと引き攣っていた。 『よくこんなに甘い物が入るな……』 げんなりしたようにそう言ったギガイへ、レフラはめげずにスプーンを差し出した。 『いや、私は不要だ。見ているだけで、十分だ……』 『でも、一緒に食べたいです』 それでもニコニコしたままレフラが、スプーンを差し出し続ければ、ギガイもウッと息を飲んで一口ずつは食べてくれた状態だった。 誰か相手にギガイがこんな風に、譲歩をするような姿なんか見たことはなかった。声も目も、仕草も。全てがレフラを特別だと伝えてくれていた。 そんなこそばゆくて、暖かい空気に浸り続けるような1日だったのだ。 明日の朝が早いということで、いつもよりもだいぶ早い就寝のために入浴をして、そのまま2人は寝室へ向かった。 寝台に横たわったギガイの腕の中に、レフラが潜り込む。そのまま眠りやすい体勢をもぞもぞと探して、ようやくレフラは姿勢を落ち着けた。 そこで大きく深呼吸をすれば、湯浴み後に使う香油の匂いに混ざりながら、フワッと漂うギガイの香。 それは温もりと相まって、どんな香よりも安心できて、癒される匂いだった。温かい気持ちを感じながら、レフラは筋肉で隆起するギガイの胸へ、思わず額をグリグリと擦り付けた。

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