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第104 共鳴の鈴 4
「ギガイ様、こんな物はイヤです……」
「大丈夫だ、鈴も石も個数はだいぶ少なくしてある。それにサイズも小さい石だけだ。お前が大人しくさえしていれば、大した刺激に成らない程度だ」
話しはそれで終いだと、レフラの衣類を手早く戻す。
でも、ズボンをはき直すだけでも、チリンと鈴が揺れていた。それに併せて石が震え出したのか、レフラの表情がサッと変わる。
出来るだけ動かないように努めているのか、身体が不自然に強張っていた。
(振動は平気なはずだが、場所が場所だけに、気になって動けない、といったところか)
まぁ、ギガイとしては、それが狙いなのだから、ちょうど良かった。
(表情も、厚めのベールに切り替えれば、隠れるだろうからな)
手早く髪も結い直して、格好を調えたギガイが、レフラの身体をいつものように抱え上げた。
「じゃあ、戻るぞ」
外へ向かって歩き出したギガイの襟元を、レフラがギュッと握りしめる。
多少震えたところで、欲を吐き出したばかりの身体だ。
この程度の振動なら、快感に煽られてしまう事はないはずだった。それでも、外が近付いてくるに連れて、不安が増しているのかもしれない。
「ほ、本当に、このまま出るんですか?」
「あぁ。大人しくさえしていれば、大丈夫だ。そんなに不安がるな」
「でも、恥ずかし過ぎます……もし、誰かに気付かれてしまったら……」
「その時は、そいつを消してやる」
レフラの頭をくしゃくしゃと撫でながら、それなら問題ないだろう、とギガイが確認をした。
「ダ、ダメです!! いつもそんな理由で、処分しようとしないで下さい!!」
途端に顔を引き攣らせたレフラが、ギガイの服を握って揺すり出した。
「大丈夫だから、落ち着け。8割程度しか本気じゃない」
「8割って、ほとんど本気ですよね! 全く落ち着けないです! しかも、この微妙な2割は何なんですか?」
「残りの2割はお前次第だな」
「私、次第ですか?」
「あぁ、1割はお前の望み次第だ。お前が望むのなら消してやる。後の1割は、私が本気で殺したくなるかどうかだ。いくら私でも、無差別な殺傷をする気はないからな」
処分を回避できる可能性を与えているのだから、ギガイにすれば、だいぶ温情をかけている。それなのに、レフラから向けられる視線は、強張りつつも、非難めいたままだった。
「なんだ、可愛げのない視線だな」
ニヤッと笑って、睨まれた目の仕返しに、ギガイがレフラの鼻を摘まんだ。レフラが小動物が精一杯威嚇するような声を上げながら、パシパシとギガイの手を払い落とした。
「だって、あまり大差が無いと思います! それに、私が決めて良いなら、そんな事で止めて下さい!」
ギガイへ精一杯反抗して、噛みつくような、可愛くない姿が愛らしい。レフラの素直さが好ましくて、ギガイはますます込み上げる笑いを噛み殺した。
(私にこんな目を向けるのは、お前ぐらいだな)
そのレフラでさえも、隷属だと信じきっていた頃は、従順でいるばかりだった。
愛おしさを込めて頭を撫でる。
「何を言っている。“そんな事”では、ないだろう」
「でも、絶対にダメです!!」
こんな手には誤魔化されない、というように、頭を撫でるギガイの手をレフラが握って押し止めた。
「なら、私が本気で殺したくならないよう、気が付かれないように、お前が務めるしかないな」
周りの人間を簡単に、切り捨てられないレフラなのだ。
(ここまで言っておけば、だいぶ大人しくしているだろう)
ギガイとしても、意地悪をしたい訳ではないけれど、さっきのような事は困るのだ。
(まさか腕から離す事態になるとは、思わなかったからな)
もし何か生じても、自分なら十数秒で駆けつけられる場所だった。それにこの一時だけは、他に配置していた近衛隊も集めて、警備も厚く積んでいた。
ギガイが戻るまでの十数秒で、叛賊がレフラへたどり着く事など不可能な陣形を組ませたはずだった。
(それにも関わらず、レフラ自身が陣形の内に招いてしまうとはな……)
ギガイの予想外の行為をしでかすレフラに、ギガイは内心で溜息を吐いた。
怒ってはいないし、咎める気もない。出来るだけ、望む事はさせてやりたい。だけど、それは何があっても守れる自分がそばに居る時だけにして欲しかった。
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