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第105 窮兎、狼を噛む 1

「うぅ~~!! 身体が痛いです……」 「ほら、揉んでやるから、こっちに来い」 手招きをするギガイに、レフラがもぞもぞと這いながら、近付いてくる。その腕を引き寄せれば、レフラの身体が、シーツの上にペタンとうつ伏せた。 「固くなっているな」 指先で軽く押した背筋は、酷使されたせいだろう。触れただけで分かるほと、だいぶ強ばっている。それを解すように、ギガイがレフラの背中を揉み始めた。 あの後からずっと、鈴を揺らさないように、レフラは腕の中で固まっていた。不自然な動きは、日頃使われていない筋肉に負担を掛けているようだった。 羞恥に弱いレフラなのだ。 この方法ならば、不要な苦痛を与える事はない。 最小限の罰で最大限の効果を得るには、良い方法だと思って選んだ方法だった。 (そこは、思惑通りだったんだが) だけど、思った以上に効果があり過ぎたのだ。身体に負担が出るほどに、レフラはガチガチになっていた。 『大丈夫だから、力を抜け』 何度そうやって声を掛けても、ギクシャクと頷くだけで精一杯のレフラに、ギガイも途中からは鈴が鳴らないように、布を巻いて工夫をしたぐらいだった。 「痛くないか?」 力を込めて壊してしまわないように、できる限り優しい力で押していく。だいぶ解れてきたのか、グイッグイッと指先に感じる弾力が、さっきとは変わっていた。 「気持ちいいです……」 風呂に入って、身体が温まっていたのも、良かったのだろう。ほぅ、と心地よさそうな吐息がレフラから漏れる。 だいぶリラックスしている様子に、ギガイの口角が緩んだ。湧き上がる気持ちのままに、身体を屈めて頭にキスを落とした。 ピクッと身体を震わせたレフラが、首を捻ってギガイの方を見上げてくる。 「どうした?」 サラリと顔に掛かった髪を払い除けて、ギガイが問いかけるが、レフラからは答えがない。そして何も言わないまま、レフラがムクッと身体を起こした。 「レフラ?」 突然どうしたのか。 不思議に思いながら呼びかけたギガイの寝衣を、レフラの手がクンッと引いてくる。 「……」 目の前にあるレフラの顔は、唇が不機嫌そうに尖っていた。意図は全く読めていない。それでも求められている事は何となく分かり、引かれるままにレフラの側へ胡坐をかく。 「身体はもう良いのか?」 答える気がないのだろう。その質問にも言葉を返さないまま、身体を起こしたレフラが、ポスッとギガイの足の上に腰を降ろす。 そのまま収まりの良い姿勢を探しているのか、モゾモゾとしばらく身動いだ後、ギガイの胸に頭を預けた。 「……脚も、痛いです……」 ギガイは目を何度か瞬かせた後、突然のレフラの行動に込み上げた笑いを、必死に抑え込んだ。 もしもここで笑おうものなら、だいぶ機嫌を損ねるだろう。 フッと漏れそうになる笑いを、軽く咳をして抑え込む。 「そうか、この辺りで良いか?」 ギガイはレフラの身体を抱え込んだまま、腕を伸ばして太股からふくらはぎまでを揉んでいく。ムスッとしたような表情で、レフラは下を向いたままだった。そのせいでギガイの様子に、気が付いた様子は全くない。 コクッと素直に頷いたレフラに、またギガイの口元がフッと緩んでしまう。頭に漏れた吐息がかかったのか、レフラがギガイの方をチラッと見上げた。 (これは、だいぶ拗ねてるな) その理由にも心当たりがあるギガイだった。機嫌を取るように額へキスをするが、拗ねている、というアピールなのだろう。ギガイの腕の中に甘えるように収まりながらも、レフラは視線をフイッと逸らした。

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