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第112 琥珀の刻 4

「色が選べるのか……レフラ、この色で良いのか?」 「えっ、えぇと、あの……ギガイ様は何色がお好きですか………?」 「お前が初めて強請った物だ。お前の好きな色を選ぶと良い」 戸惑ったように視線をわずかに逸らしたレフラだったが、そのまま口元に軽く指をあて、チラッとギガイの方を伺い見た。 仕草から、何か思う色が本当はあった事が、見て取れる。 分かりやすい様子に、口元が緩みそうになる。ギガイは軽く咳払いをして、抑え込んだ。 それで、結局は何色が欲しいのか。 ギガイがそうレフラへ聞こうとしたタイミングだった。それよりも先に、レフラが「あの……」と店の男へ声を掛けていた。 レフラにすれば、1番答えきれる者へ質問しただけだ、とは分かっている。それでもギガイの質問に対して、自分を飛び越えて、他の者と会話をし出したレフラに、ギガイがわずかにムッとした。 (また、私が許可をした者以外に……) 「は、はい!」 色の確認を行っていた男にしても、レフラから直接話しかけられる、とは思っていなかったのだろう。返事をした声が、少し裏返っていた。 「どんな色への変更も、可能でしょうか?」 「た、大半のお色は可能です」 だがギガイの心情とは裏腹に、目の前にあったレフラの表情が、途端にパッと華やいだ。嬉しそうなその顔は、店の男の回答が、望み通りだったということだろう。 「それでしたら、琥珀色も可能ですか?」 声も期待で、少し弾んでいる。さっきまであった、どこか遠慮がちな雰囲気も、すっかりとなくなっていた。 (嬉しそうだな) その表情を見れば、さすがに水を差す気にも成れずに、ギガイはひとまず黙り込んだ。 (まぁ、私がそばに居る時は、好きに振る舞って良い、とも伝えているからな) 下手に咎めて、昨日のように拗ねられでもしたらマズい、と分かっている。 (仕方ない……) 首裏に添えた手で筋を解しながら、湧き上がる感情をどうにか去なす。その時に感じた視線の方へ目を向ければ、驚愕とも動揺ともつかない、表情を浮かべるラクーシュ達3人と目が合った。 「琥珀色ですか……少し金色がかったお色になりますが、そちらでも、よろしいでしょうか?」 「金色ですか……? 何か参考にできる物はありますか?」 「あっ、はい。あちらの方になります」 男が壁にはめ込まれているガラス細工を示していた。その中を満たす液体に、レフラが再び目を輝かせて、ギガイの方を振り返る。 「ギガイ様、見てきても良いですか?」 「あぁ」 抱えたまま近付こうとしたギガイへ、ニコッと笑ったレフラが首を振った。 「ギガイ様、降ろして下さい。自分で見てきます」 何を言っていると、咎めようとした途端に、レフラが耳元に顔を寄せた。 「ギガイ様、約束しました」 ねっ? ダメ押しをするように小首を傾げて、レフラがもう一度ニコッと笑っていた。そんなレフラへ「グルッ」と唸る音が、喉の奥から思わず鳴った。 日頃、冷酷無慈悲と言われる立場なのだ。 そんな自分の様子に、周りの者達へピリッとした緊張が、走ったことが肌で感じられた。 だけど、昨日さんざん|拗《こじ》れて、レフラから宣言された “お仕置き” の最中だ。そのせいで、ギガイがレフラに対して怒る事ができないと、とうのレフラは分かっているのだ。 ギガイの雰囲気にピクッと身体を反応させながらも、撤回するような様子はなかった。 「……これは、今日だけだぞ……」 どうしても、絞り出す声が低くなる。 「はい。ごめんなさい……でも、約束を守って下さって、嬉しいです。ありがとうございます」 そんなギガイの首筋に、レフラがギュッと抱きついた。

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