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第123 掛け替えのない×× 1

コポコポ……。 寄り添うと、ヒンヤリとしたガラスの冷たさが、伝わってくる。それに合わせて小さな水音が聞こえてきて、レフラはフフッと嬉しそうに口元を緩めた。 寝室に水時計が運び込まれてから1ヶ月の間、レフラは何かとその前で過ごしている。 『あまり床に座り込むな』 そう言ったギガイが、居心地の良いラグを導入したのは、水時計が設置されてから3日目の昼だった。どうやら腰が冷える事を心配したらしい。 (これぐらいなら、大丈夫だと思いますが) それでも、そうやって気にして貰える事が嬉しくて、同じように準備されたクッションを微笑みながら抱き寄せた。 (だけど、床よりも、こっちの方が冷たいんですよね) 後ろめたさを感じない訳じゃないけれど、くっついたガラス管の冷たさが心地良い。 身体を冷やすな、と言われているのだ。ギガイに知られたら、きっと小言を言われるかもしれない。 でも護衛の3人と外の畑を世話した後に、この心地良さは格別だった。 今日もまた冷たさを楽しんで、レフラはラグの上のクッションに身体をポスッと横たえた。 コロン、と転がったまま見上げれば、琥珀の液体が光に煌めきながら流れていく。ゆったりと上がったり、下がったりと移動する液体を穏やかな気持ちで眺めていれば、徐々に眠気が増してくる。 (……ダメ、ギガイ様が戻ってくるのに……) それなのに眠ってしまったら、せっかくの時間を一緒に過ごせなくなってしまう。 祭りが終わって、ようやく以前のような、穏やかな時間が戻ってきている。 だけど以前と違って、だいぶのびのびと過ごしているレフラだった。祭りの後、宮に籠もる毎日に、鬱ぎがちになってしまったレフラへ、ギガイがだいぶ譲歩をしてくれたのだ。 そのおかげで、今では護衛の3人と畑を耕す以外にも、外を散策したり、時にはギガイの執務室へ向かうこともあるぐらいだった。 自分の意思で行ける場所が、こうやって広がった事はとても嬉しい。だけどその分だけ、ギガイと2人きりに成れる時間が減ってしまうのはイヤだった。 だからこそ、ギガイの戻りの連絡があれば、レフラは何をおいても、宮に戻ってギガイをちゃんと待つようにしていたのだ。 それなのに、今日はなぜだか、とても眠くなってくる。 (このままでは、眠ってしまいます……) ちゃんとギガイを待っていたいのに、ゆらゆら揺れるレフラの前で、寝室の扉はまだまだ開く様子がない。レフラの瞬きも、だんだんゆっくりと成っていく。 ひときわレフラの身体がゆらりと揺れて、そのままふわっとクッションの上へ倒れ込む。心地良い弾力のクッションは、そんなレフラの身体を優しく受け止めた。そしてレフラも気が付かない内に、意識は柔らかな夢へと旅だった。 ◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆ コポコポ……。 トクトクトク。 微かな音が聞こえてくる。薄らと目を開ければ、穏やかな琥珀が、レフラの視界を満たしていた。 暖かくて、優しくて。 心地良い音と、身体を包む力の安心感に、レフラを言いようのない多幸感が包んでいく。そんな現実味のない幸せな感覚に、漠然と(あぁ、夢なのだ)と、レフラは理解した。 (すごく、良い夢) ふわっと笑ったレフラが、触れた温もりにスリスリと頬を擦り寄せた。 「クスッ」 途端に、聞こえた小さな音。 その音につられて見上げた先には、水時計と同じ瞳のギガイが、レフラを優しく見つめていた。 (ふふふ、ギガイ様だ) 幸せな夢の中に、ギガイまで現れたのだ。レフラは自分の口元が、ますます綻んだのがハッキリと分かった。 溢れた愛おしさのまま、思わずギガイの胸元にキスをすれば、筋肉の隆起が服越しに、レフラの唇へ伝わってくる。だけど、その感触も温もりも、しっかり感じるには、この布がだいぶ邪魔だった。 「むぅ~~」 不満に、思わず唇を尖らせて、レフラは身体を伸び上がらせた。 満足できる感触を求めて、上へ上へとキスで身体を辿っていく。首筋まで来てようやく直接肌に触れた感触に、レフラはまたフフッと微笑んだ。

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