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第134 陰る幸せ 6
ギガイの腕を両手で抱えて、縋り付いているレフラへ目を向ける。
一時は全てを定めとして、受け入れてきた姿を見てきたのだ。その時のレフラが、折れない矜持を抱きながら、いつかは自分らしく生きる日を望んでいたことも知っている。
ダメだ、と言いながらも。
『私の人生から、私をのけ者にしないで』
その言葉の重みを知っているからこそ、ギガイは無理やり従わせることも躊躇った。
「……ギガイ様、お願いです……」
扉を開けた瞬間に聞こえたレフラの声に、何か生じた事を察知したのだろう。
戻った5人の顔がとたんに引き締まる。
入り口へ顔を向けたギガイが、リラン達3人を呼びつける。そばに跪いた3人に、レフラの顔が引き攣った。
「……どうして、も、ダメなんですか……?」
声が震えて、失望の色が表情にも広がっていく。きっとここでギガイが頷けば、レフラは大人しく引き下がるはずだ。その代わり、レフラにとって大切な想いを捨てさせてのことになる。それが分かるからこそ、ギガイは重々しい溜息を吐き出した。
「謁見への立ち会いは、認めん」
「……はい……」
ギガイの腕へ縋り付いていた腕から力が抜けて、項垂れたレフラの前でダラリと垂れた。
「……だが、脇へ控えている事は、認めてやる」
だけど続いた言葉に、レフラがバッと顔を上げる。
「あくまでも聞いているだけだ。発言はおろか、姿を出すことも認めん。場合によっては、途中でも宮へ戻させる。それでも良いな?」
「はい……ッ!!」
何度も大きく首を振って、返事をするレフラの表情に生気がわずかに戻っていた。
ギガイとしては、レフラを守り、慈しみたいだけだった。
この後、耳にする言葉や状況が、レフラの傷にならなければ良い。
そう思いながら、強張るレフラの顔に手を添えた。
「跳び族から、至急の謁見の願い出があった。代替わりの挨拶に加えて、御饌の約定の件でレフラへも関わるとのことだ。謁見の間で待たせている。お前ら3人は、脇でレフラと共に控えていろ。ただし、状況によっては退出させる。その心積もりでいろ」
「かしこまりました」
スッと立ち上がったギガイが、ソファーの上にレフラを残して、隣の会談などを行う部屋へ通じる扉に手を掛ける。
「リュクトワス、アドフィル、話しがある」
入れ、と視線で促したギガイが扉を閉める瞬間、レフラをスッと鋭い視線で見定めた。
「間違えても “跳び族の耳” は使うな」
過去に1度使用して、大きな騒動に至っているのだ。釘を刺されたレフラも、分かっているのだろう。ギガイの視線の圧に怯えたのか、レフラがビクッと身体を跳ねさせる。
恐怖や力で抑え込みたいわけじゃない。
だがこの事態だ。状況がどのように変わるか分からないのだから。レフラが知るべきではない、そうギガイが判断したことを、知られてしまう可能性はあらかじめ潰しておく必要がどうしてもあった。
「はい。もう、使いません……」
大きく頷くレフラからは、落ち込んだ雰囲気が漂っていた。
以前のことも咎められた、と思っているのかもしれない。
「以前のことを今さら咎めている訳ではない。使わないなら、それで良い。不要に落ち込むな。取りあえず今は3人と待っていろ」
早口でそう言って、視線が合った3人に、レフラのフォローをしてろと顎で示す。
3人が立ち上がってレフラを囲った所で、ギガイはパタンと扉を閉めた。
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