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第141 かわされた言葉 2
小さな音が鳴っていて、カチャッと金属の音が聞こえてくる。
その音が切っ掛けとなったのか。突然目覚めたレフラは、柔らかな寝台の上で跳ね起きた。
「ギガイ様!?」
周りを見回しても、もうそこには誰もいなかった。
さっき聞こえた金属音が扉の方からだと気が付いて、転がるように扉へ駆け寄る。さっき出て行ったばかりなら、まだそこに居るかもしれないのだ。
「待って、ギガイ様、お願い待って!!」
いつものように、声は掛けてくれたのか。それに気が付かなかっただけなのか。
部屋を満たす柔らかな光も、静かに流れる水時計も、いつもよりも早い朝だと告げてはいたけど、一見すればいつもと変わらず穏やかな朝だった。
「ギガイ様!!」
ガチャガチャーーーー。
だけど、手を掛けた寝室の扉は、固い感触と音を立てて、いつものように開いてくれる様子はない。
「やだ、なんで。ギガイ様、どうしてですか!?」
話しを聞いてくれる、と言っていたはずなのに。どうしてそのまま行ってしまうのか。どうして扉に鍵がかかって、ここから出ることさえ出来ないのか、レフラは分からないままだった。
「ギガイ様、ギガイ様、お願いです!! 話しを聞いて下さい! ギガイ様!!」
跳び族の耳を使っても、人の気配らしき音は聞こえてこない。
もう扉の向こうには誰もいないのかもしれなかった。
ハッと気が付いて、別な扉の方へ向かう。
寝室から繋がる浴室は、通路側への扉もあるはずなのだ。
ガチャガチャーーーー。
だけど、当然のようにそのドアノブからも、固い感触が返ってくる。
「……閉じ込め、られた……? どう、して……?」
少しでも早く伝えなくては間に合わないのに。
その機会を与えてもらえない状況に、焦る気持ちのままレフラは広い室内で、同じところをずっとグルグルと回っていた。
「レフラ様、お目覚めですか?」
その状態で、どれぐらいの時間が経ったのだろう。
遠慮がちなノックと共に、リランの声が扉の向こうから聞こえてくる。
「は、はい!!」
声に慌てて扉へ駆け寄れば、解錠する音が続いて聞こえた。
その直後に、バッと扉を開いたレフラは、隣の部屋に勢い込んだ。
「ギガイ様は!?」
「すでに、執務室にいらっしゃると思います」
どういった手筈になっているのか、護衛の3人が、なぜかレフラ1人分の食事をいつもの卓へと並べている。
「ギガイ様の所に、行きたいです!」
「それは出来ません。しばらく寝室で療養するように、とのことです。お食事を摂られたら、また寝室でお休みください」
「お願いです! ギガイ様の所へ行かせてください!」
「……申し訳ございません。レフラ様、食事を摂られてください」
「お願いです! だって皆様も、昨日一緒に聞いていたでしょう!? 跳び族が約定の破棄だなんて、おかしいんです! 仮にそうだとしても、内乱があったことは間違いないんです!」
「……申し訳ございません。私達はレフラ様の護衛です。そのお話しは、私達がお話しできる範囲を超えています」
「でも!」
「常々、御饌様として、領分を弁えられていたレフラ様なら、お分かり頂けると思います」
「……領分……」
確かにこの先の話しはギガイの領域で、レフラが話しをできることではない。
力を持たないレフラには、助けてもらうにも、黒族の武官に頼るしかない。彼らの命に対する責務を果たすことが出来ない以上は、口を出す権利がないことは知っていた。
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