346 / 382

第142 かわされた言葉 3

「ではせめて……御饌の約定がどうなったのか……教えて下さい……」 それなら、御饌である自分には聞く権利があるはずだ。 「……私達からは回答できませんが、ギガイ様からお伝え頂けるように、お願いして参ります……」 他の2人と視線を交わしたリランが、レフラへそう約束をしてくれた。 「ですので、まずはお食事を摂って下さいませんか?」 優しく食事をラクーシュが促してくる。 「でも……」 「レフラ様のお食事が終わったら、向かいます」 それに対してエルフィルは、心配そうな雰囲気ながらも、折れる気は全くなさそうだった。 「スープだけでも、良いですか……?」 「肉も、とは申しません。ですから、せめてパンとサラダまでは、召し上がって下さい」 「……はい……」 力なく頷いたレフラを、3人がいつものソファーへ誘導する。 「熱いですから、気を付けて下さい」 リランがスープが入ったカップを手渡した。素直に受け取り、口を付ける。昨日の昼以降、ろくに食事を摂っていないのだから、身体は空腹なはずだった。 それでも口にしたスープはほとんど味がしなくて、流し込むのが精一杯だった。 どうにかカップを空にして、パンをちぎって口に運ぶ。一口目はどうにか飲み込めたそれも、二口目にはなかなか飲み込めず。三口目には口に入れることさえ、できなかった。 「……すみません、もう……」 そんなレフラの様子に、さすがに限界だと思ったのだろう。 「ギガイ様へお伝えしてきますので、寝室で休んでいて下さい」 エルフィルのその言葉に、リランが手拭きを差し出してくれた。 食事の終わりと同時に寝室へと促されて、レフラは扉へ手を掛けた。そのまま扉も開けずに、かといって何も言えないまま、ただ3人の方を見上げてみる。 「大丈夫ですよ、こちらの部屋にはつねに私達の内、必ず誰か1人は控えております」 1人を苦手とするレフラを気遣うように、そう言ったリランの言葉に続いて。 「早くお部屋から出られるように、私達も尽力しますから」 エルフィルもいつもの笑顔を浮かべていた。 「さっそくギガイ様へお願いしてきますよ!」 その横でラクーシュは、任せておけとでも言うように胸を張っていた。そんなラクーシュの様子に、リランとエルフィルがニヤリと笑みを向ける。 「よし、それならギガイ様へのお伺いは、ラクーシュお前に任せた!」 「リラン、ちょっと待て!」 「しっかり俺たちがここをお守りしておくから、安心して早く行ってこい」 「ちょっ! エルフィル、お前まで」 「さて、レフラ様、あとはラクーシュに任せて、大船に乗ったつもりで、私達はのんびりとここで待っていましょう」 「あっ、何か新しい本でも取ってきますか?」 「くそっ! お前等、後で覚えてろよ! 俺の当番分の定期報告は、お前等で1回ずつ交代しろよ! あと酒もおごれ!」 体良く役割を押しつけられたラクーシュを「分かったから、さっさと行け」と笑い飛ばす2人の姿。そんな3人の姿は、昨日の事などなかったように、あまりにいつも通りなのだ。 「……皆様は、変わらないんですね……」 そんな3人に、あっけに取られたレフラの口から、ポロッと言葉が零れ出る。 「変わりませんよ」 「何があったとしても、俺たちは、レフラ様をお守りするのが役目ですから」 「何が起きようと、同じですよ」 いつものように3人が、レフラの方に笑いかけた。 「だから、大丈夫ですよ。今はご不安も多いでしょうが、お1人ではありませんから」 でも、3人のいつも以上に優しい目に、レフラの目に涙が浮かぶ。それでもその涙が、頬を伝うことはやっぱりなかった。

ともだちにシェアしよう!