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第142 かわされた言葉 3
「ではせめて……御饌の約定がどうなったのか……教えて下さい……」
それなら、御饌である自分には聞く権利があるはずだ。
「……私達からは回答できませんが、ギガイ様からお伝え頂けるように、お願いして参ります……」
他の2人と視線を交わしたリランが、レフラへそう約束をしてくれた。
「ですので、まずはお食事を摂って下さいませんか?」
優しく食事をラクーシュが促してくる。
「でも……」
「レフラ様のお食事が終わったら、向かいます」
それに対してエルフィルは、心配そうな雰囲気ながらも、折れる気は全くなさそうだった。
「スープだけでも、良いですか……?」
「肉も、とは申しません。ですから、せめてパンとサラダまでは、召し上がって下さい」
「……はい……」
力なく頷いたレフラを、3人がいつものソファーへ誘導する。
「熱いですから、気を付けて下さい」
リランがスープが入ったカップを手渡した。素直に受け取り、口を付ける。昨日の昼以降、ろくに食事を摂っていないのだから、身体は空腹なはずだった。
それでも口にしたスープはほとんど味がしなくて、流し込むのが精一杯だった。
どうにかカップを空にして、パンをちぎって口に運ぶ。一口目はどうにか飲み込めたそれも、二口目にはなかなか飲み込めず。三口目には口に入れることさえ、できなかった。
「……すみません、もう……」
そんなレフラの様子に、さすがに限界だと思ったのだろう。
「ギガイ様へお伝えしてきますので、寝室で休んでいて下さい」
エルフィルのその言葉に、リランが手拭きを差し出してくれた。
食事の終わりと同時に寝室へと促されて、レフラは扉へ手を掛けた。そのまま扉も開けずに、かといって何も言えないまま、ただ3人の方を見上げてみる。
「大丈夫ですよ、こちらの部屋にはつねに私達の内、必ず誰か1人は控えております」
1人を苦手とするレフラを気遣うように、そう言ったリランの言葉に続いて。
「早くお部屋から出られるように、私達も尽力しますから」
エルフィルもいつもの笑顔を浮かべていた。
「さっそくギガイ様へお願いしてきますよ!」
その横でラクーシュは、任せておけとでも言うように胸を張っていた。そんなラクーシュの様子に、リランとエルフィルがニヤリと笑みを向ける。
「よし、それならギガイ様へのお伺いは、ラクーシュお前に任せた!」
「リラン、ちょっと待て!」
「しっかり俺たちがここをお守りしておくから、安心して早く行ってこい」
「ちょっ! エルフィル、お前まで」
「さて、レフラ様、あとはラクーシュに任せて、大船に乗ったつもりで、私達はのんびりとここで待っていましょう」
「あっ、何か新しい本でも取ってきますか?」
「くそっ! お前等、後で覚えてろよ! 俺の当番分の定期報告は、お前等で1回ずつ交代しろよ! あと酒もおごれ!」
体良く役割を押しつけられたラクーシュを「分かったから、さっさと行け」と笑い飛ばす2人の姿。そんな3人の姿は、昨日の事などなかったように、あまりにいつも通りなのだ。
「……皆様は、変わらないんですね……」
そんな3人に、あっけに取られたレフラの口から、ポロッと言葉が零れ出る。
「変わりませんよ」
「何があったとしても、俺たちは、レフラ様をお守りするのが役目ですから」
「何が起きようと、同じですよ」
いつものように3人が、レフラの方に笑いかけた。
「だから、大丈夫ですよ。今はご不安も多いでしょうが、お1人ではありませんから」
でも、3人のいつも以上に優しい目に、レフラの目に涙が浮かぶ。それでもその涙が、頬を伝うことはやっぱりなかった。
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