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第154 それぞれの想い 2

それからの5日ほど、3人が長く感じた5日間はなかった。 だけど、報告の者が戻りさえすれば、ギガイへどうにか会えるはず。会えさえすれば、すぐにでも再任してもらえて、またあの宮へ戻る事ができるはずだ。 独りを苦手なレフラを心配しながら、3人は半ば祈るような気持ちでそう思っていた。 今回の騒動では、ギガイの意に背いて、ケガを負う事態とはなった。だが、3人の行動は。 『お前達の命を懸けようと、あれを損なうな』 ギガイのこの命に従った行動だったと、ギガイ自身が免罪をしたのだ。 その上、遠征に出る前のギガイも、あの状態のレフラを独りにすることを気にしていた。 『今回の件は、思った以上に筋が悪い。今は何も言えんが、事態が変われば、報告を入れさせる。お前等はレフラに付いていろ』 日々、ありったけの力を駆使して、レフラを護り、愛しんでいる主なのだ。今回のレフラの件は、だいぶ精神的に来たのか。 『あれは、大人しく私に護られてはくれないからな。何も知らせなければ、自分でどうにかしようと、逆に自分を傷付ける』 そう言ったギガイの顔や声音には、疲労の色が見えていた。 そんなギガイだったから、再任については不安は全く抱かなかった。だが、こんなにも会うことが難しいとは、正直思っていなかったのだ。 最初に向かった第4小隊で、ヴォルフにギガイの居場所を尋ねた時には、小隊ごとに分かれて潜んでいる近衛隊の、どこかに居るのだと思っていた。 だけど、声をわずかに潜めたヴォルフからは『ギガイ様は、白族と緋族の元へ向かった』と告げられたのだ。 思ってもいなかった内容に戸惑えば、どうやら、族長の交代によって立場を追われたナネッテが、同じように覇権争いに負けた現緋族長の弟であるグレフィルと手を組んで、跳び族の地を乗っ取っているらしいのだ。 イシュカのプライドの高さに目を付けて、言葉巧みに、黒族との約定を破棄させたのも、事を起こす前に、黒族の庇護を失わせるためだったのだろう。 約定の破棄後にいくら事態が発覚しても、基本的に部族間の争いはその当種族同士の解決だ。黒族が動くだけの道理がなければ、ギガイとしても動けない。それを狙っていた事が見て取れる。 ギガイが動くには、約定の破棄自体を無効にさせる必要があった。その為にも、イシュカの代替わり自体を無効とする必要があったのだ。 一番早いのは、前族長であったレグシスを見つけ出し、本人の口からイシュカの謀反と除名を言わせる事なのだ。そのため、あの若い武官を先に潜り込ませていたようだった。 『それで、実際にレグシス様は見つかったのか?』 レグシスはレフラの父だ。謀反があったはずだ、と必死に訴えていたレフラを思い出す。 『あぁ、どうにかな。どうやら跳び族内でも、機会を狙っていた者達が居たようで、その者と部下のハァバンで、どうにか連れ出した状態だ』 『どうにか、というのは何か問題があったのか?』 『レグシス様にしても、何か薬を使われたのか、ほとんど虫の息の状態だ。それに俺の部下にしても、腕を一本失った……』 『腕を……』 『その時の追っ手は全滅させたらしいが、そろそろ仲間が戻らないことに、あいつらも気付いてしまうだろう。そうなれば火蓋が切られるだろうな』 『ということは、白族と緋族を相手に、戦いになるってことか』 『あぁ、このまま戦いが始まれば、避けられないだろうな』 各部族とも、流れた一民が仕出かした騒動ではない。下手をすれば種族を背負う立場の者だ。 『それに、どうやら跳び族の民にも被害が出ている様子だからな。力がある男達も、家族などを人質に取られて従わされている様子だ』 しかも、事がここまで大きくなっているのなら、なおさらだった。 約定の破棄を撤回すれば、跳び族は黒族が庇護する対象だ。それを損なう行為は、黒族へ剣先を向ける事と同じだった。あとは制圧に当たるギガイが、それぞれの部族による黒族への叛意と判断すれば、そのまま討伐されるだろう。 白族や緋族にすれば、覇権争いに負けた者達が仕出かした事で、黒族に攻め込まれるのは、どうにか避けたいはずなのだ。 『それで、ギガイ様が各部族へ赴いたのは、当人達に後始末をさせるためか?』 『あぁ、もし白族や緋族が、自分の部族の叛賊に対して討伐隊を出すならば、黒族の討伐対象は、跳び族の内乱者のみとする予定だからな』 そのための交渉に、それぞれの地へ赴いている状況だという。 ギガイの後を追ったとして、上手くギガイにコンタクトが取れるかも分からない。また、入れ違いになってしまえば、ますます時間は、悪戯に過ぎていくはずなのだ。 ここでギガイの戻りを待つことが、きっと最善なのだろう。 焦る気持ちを抑え込みながら、3人は大きく溜息を吐き出した。

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