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第155 それぞれの想い 3
あんなにずっと眠っていたい、と思っていたのに、やっぱりそうはいかないらしい。
安らいだ眠りの終わりは、突然だった。
夢の余韻さえ感じさせずに、フッと覚めたクリアな視界に、見慣れた天蓋が広がっていた。
寝台の上でコロン、と転がって隣を見ても、かつてのようにギガイがそこに居る訳もなく。レフラ一人だけの大きな寝台に、レフラはもう一度上を向いた。
分かっていた。期待をした訳じゃない。
ただ、ついさっきまで、あの腕に抱き締められていた気がして、何となく振り返ってしまっただけだった。
(良い夢だったな。もう少しだけでも、見ていたかったのに……)
そう思って、もう一度ギュッと目を閉じてみる。だけどハッキリと覚醒した頭では、もうわずかな微睡みさえ、戻って来なかった。
レフラは諦めて、身体を起こして、寝台の上に座り込む。
次にギガイへ会えるのは、どれぐらい夢を見た時だろう。久しぶりに得た安らぎに、今日は心がワガママになっているようだった。
(会いたいな……、夢の中で良いから、ギガイ様に会いたいな……)
求めなければ、想い出だけで生きていける。分かっているのに、今日はそれだけを|縁《よすが》にするのは難しかった。
昨日の穏やかさが嘘のように、ジクジクと痛む胸に、目の奥まで熱くなる。だけど、もう潤むことのない眼に、レフラはフフッと力なく笑った。
(泣き虫、ってギガイ様は仰ってましたけど、やっぱり、ギガイ様の前だけでしたよ……)
だって、嫁ぐまでは本当に、泣いたことなんてなかったのだ。昔にしても今にしても、泣いてしまう弱さなんて、1人で生きていくには必要ないのだから、当然だろう。
(ただ、泣き虫だ、って誤解されたままなのが、ちょっとだけ悔しいですよね……)
少しだけ、レフラはそんな風に強がって、無理やり口角を上げてみた。
今日は想い出に浸れない分、いつも以上に、今のギガイに想いを馳せてしまっていた。それを押しとどめる心があまりにも苦しくて。
「……ギガイ様、ご無事かな……お休みは、取れているのかな……疲れてるのに、ムリをしていないかな……今日は何か召し上がったかな……」
誰に聞かせる当てもない言葉を、思い浮かんだままに零していく。
久しぶりに声を使ったせいだろう。喉が詰まって、上手く声が出せなかった。だから。
「……もう、誰かを……」
抱いたのかな ───。
それが音に成らなかったのも。ますます喉が詰まったような気がしたのも、全部、久しぶりに声を使ったせいなんだろう。
「…………ご飯……食べ、なきゃ……」
しばらく喉を擦った後、レフラはそう言って、モゾモゾと寝台の上を移動する。
本当は何も欲しくない。でも、約束なのだ。損なうマネはしない、って。
(今さらだとは、分かってるんです……)
あんな風に自分の命を引き換えに、交渉の真似事をして見せたのだ。そんな自分が、約束も何もないだろう。嘲笑染みた想いが過る。
でも、これ以上、約束を破って失望されたくなかった。だから、どんなに身体が拒絶をしても、少しでも食事を摂るように、レフラは頑張っていた。
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