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翌朝九時十分。授業開始十分前。俺は目をしょぼつかせて校内を歩いていた。昨夜は俺のイチ押しアニメ『戦国おとめ☆てんちゅーファイブ!』の放送があり、寝るのが大分遅くなったのだ。やっぱりバイト代を貯めて録画機器を買うべきか。いやそんな金があるならラノベやDVDボックスや同人誌に費やしたい。というか録画していてもリアルタイムで見たい。SNSで実況したい。
まとまらない思考でそんなことを考えながらふらふらと歩いていれば、例のリア充三銃士につかまった。
「おーっす周藤!」
「うおおおはよう」
後ろからガシッと肩を組まれて飛び上がる。漫画だったら口から心臓がコンニチワしてるところだった。山田くん(だった気がする)、加藤くん(恐らく)、伊藤くん(かな?)の三人はいつも一緒にいる。それだけ仲がいいなら三人で完結していればいいのに、なぜかいつも俺を巻き込みたがるのだ。まあボッチよりはいいけれど、話が合わないんだよなあ。
「なんか元気なくね?」
「あー、昨日深夜アニメ見てて」
「出たー! ほんとブレねえなあ周藤は」
などとゲラゲラ笑う。こういうときにすぐに「分かりみ」「把握」と言ってくれて、アニメ談義に花を咲かせていた仲間はみんな、俺より頭のいい別の大学にいってしまった。アニメの話はネットでもできるんだけど、やっぱり同じ温度で語れる仲間ってのがほしいんだよなあ。
ふと、思う。シュンくんってあの見た目、いかにも陰キャラですという感じ。もしかしたら同士なのでは?
そうだ今度話題を振ってみよう。寝不足でぼんやりしていた頭にぽんっと一輪お花が咲く。だがシュンくんのことを考えていた思考は山田くん(じゃないかもしれない)によって遮られた。
「それよりさあ、考えてくれた? 今週末」
「今週末?」
「合コンやるって言っただろー。周藤にきてほしいっていう女子が多いんだよ、頼むよー」
ごうこん。オタクといえばコミケ。リア充といえば合コン。噂には聞いたことがあるけど本当にやってるんだあ。へーえ。って感じ。
無論そこに赴いてやろうなんていう無謀は冒すつもりもない。
「いやいやいやいやいや。無理無理無理、無理だよ俺には」
「そう言わず、かわいい女の子いっぱい呼ぶからさあ」
「俺賑やかなところ苦手だし、お酒飲めないし、オタクな話しかできないし」
「いいんだよ周藤はそのままで。そのギャップがウケるんじゃん?」
むう。俺は見世物じゃないんだけどなあ。
そう。オタクにありがちなボッチ寝たふり便所飯という悲しいフルコースを辿らずに済んでいるのは有難いのだが、こういう珍獣のような扱いを受けることはままあった。萌えーって言うの、とか聞かれたり。古いよ。情報が古すぎるよ。
別にオタクに対して理解してほしいとは思わないから、せめてそっとしておいてほしい。そう願うのは贅沢なんだろうか?
ほんのりと居心地の悪さを感じていると、前方に神々しいオーラを感じる。講義棟の入り口。遠くからでも分かってしまうあの気配。嫁だ。俺の嫁がいる。
「シュン!」
俺は山田くん(?)の腕を振りほどいて神様仏様嫁様に駆け寄る。嫁ことシュンは、本日もスキニージーンズにポロシャツパーカーという地味……もといシンプルなお出で立ち。
「おはよう、周藤くん」
「おはよー。シュンも次の概論受けるの?」
「うん。必修だからね」
「隣座ろうっ」
「いいけど……お友達はいいの?」
シュンの視線が背後でこちらを見ている三銃士にそそがれる。もともと一緒に登校していたわけでもないし、いいんじゃないかな。
「大丈夫大丈夫。あ、加藤くん。俺こっちと一緒に座るから」
一応声はかけておくけどね。加藤くん(だといいな)含め三人はぽかんとした顔で、講義棟に連れ立って入っていく俺とシュンを見ていた。
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