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 はじめてだから、加減なんて分からない。なるべく優しく、だけどけっして弱くはなく、唇に唇を押し付ける。息していいのコレ、どうやって息するの、ああシュンの唇柔らかいなあ、気持ちいいなあコレなんだこれ。抜いてるときとかと違う気持ちよさっていうか、唇に神経が集中しちゃって全身がシュンとくっついている気分になるっていうか、うん、息が苦しい一回放そう。 「っは……」  ぷは、とどちらともなく息を吐く。シュンも俺も呆然としていた。は、は、と浅く息をしながら至近距離で見つめ合う。  ……えっと。何やってるんだろう、俺。いくら同人誌で見たシチュエーションだからって真似するか? 俺もシュンも男だし、シュンだって初めてだったかもしれないのに、何してるんだろう本当。そう思いながらも、後悔する気持ちは全くない。シュンにキスをした。それは全くもって自然なことだったように思えてくる。  ああ、なんだ。賢くない頭で何をぐちゃぐちゃ考えていたんだろう。 「シュンが好き」  ただただかわいいシュンが好き。素直で素朴なシュンが好き。俺の話を静かに聞いてくれるシュンが好き。実は意外と男らしいシュンも好き。一緒にいるとあたたかくなる。離れていると会いたくなる。近くにいると触りたくなる。  なんだ、俺はとっくにシュンに恋をしていたんだ。 「す、き……」  さっきまで触れていた唇が、俺の言葉を一文字、一文字確かめるように小さく動く。そしてかなりの時間を要してその意味を理解し、まるで漫画のようにぼんっと顔を赤くした。 「え、すき? それは、その、友達、いや、アニメのキャラににてるっていう」 「違う。ありのままのシュンが好き。大好き。こういう意味で好き」 「っ……」  もう一度、噛みつくようにキスをする。ちょっと角度をつけてむにむにと押し付ければ、掴んだシュンの肩がふるふると震えていた。 「ねえ、信じて」  唇を離し、小さな体を腕の中に閉じ込める。 「……」  すん、とシュンが鼻をすする。 「まだまだ知らないところも多いけど、シュンと一緒にいて楽しいって思う俺も本物だし、シュンのことを見て可愛いって思う気持ちも本物だし、シュンに嫌われたくないって思うのも、……今ドキドキしてるのも、本物」  俺の胸にすっぽりと収まったシュンにはきっとばれている。さっきから俺の心臓はドクンドクンと飛び出さんほどに激しく脈打っていた。でも、きっと俺だけじゃない。床を黙って見つめているシュンだって耳が赤い。  ねえ、そういうことだって思っていいのだろうか? 「シュンが嫌なら春ちゃんのグッズも同人誌も全部捨てるよ。ブクマも削除する」  それを言うのには勇気が要った。一年がかりで集めてきた春ちゃん関連商品は俺の宝だ。限定品で今はもう手に入らないものもいくつもある。あれらを捨てられたら俺は灰になると思っていた。昨日までは。 「どうじん……? ちょっと分からないけど、それは、いい」 「そうなの?」 「うん、周藤くんが大切にしているものだって分かるから」 「そ、っか」  こういうところが本当にシュンのいいところだと思う。自分は興味のないものでも、俺の趣味や価値観を大事にしてくれる。そういうシュンだからきっと、俺は。 「それに俺も、周藤くんに隠してたことある」 「う、うん」  そうだね、いっぱいありそうだね!  シュンは俺の腕の中で体をよじると、涙でキラキラ光る瞳で見上げてくる。う、下半身に毒な光景だな……。 「ちゃんと話すから、聞いてくれる……?」 「うん」  俺は心から微笑む。作りなれた必殺イケメンスマイルよりも、ずっと自然に笑えていた。

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