17 / 20

17

 きっかけは、名前と顔が女の子みたい、という何とも萌える設定、いや、そんなくだらない理由による小学校でのいじめだったらしい。しかし川住少年は大人しくいじめられる玉ではなかった。からかってくる奴らを片っ端から張り倒して回った。そして気づけば完全にガキどものボスと化していた。  中学生の川住少年は手のつけようのない不良少年だったという。そして高校に入って走り屋デビュー。複数の舎弟を引き連れて夜の街を爆走する青春を謳歌したらしい。  俺はそれらの話をただただ唖然と聞いていた。俺には到底知りえない世界の話をするシュンの横顔は、いつも大学で見慣れたそれで。少し地味で大人しいけれど、可愛くて天使でエロくて可愛い俺の嫁似のシュン以外の何者でもない 「でもこのままじゃダメだってずっと思っててさ。それで大学進学を機に、そういう世界からは卒業したんだ。勉強はしてこなかったから一浪したけどね。だから実は俺、周藤くんよりひとつ年上なんだ」  たはは、と照れたように笑うその様はギュッッとしたくなるほど可愛い。でも視界の隅に白い特攻服がチラついて、気が散った。  それにしても、そんな不良状態から、地方の公立とはいえ大学に入るのは簡単なことではなかったはずだ。きっと本当にどうにかしようと思って、相当頑張ったのだろう。 「どうしてもバイク好きだけはやめられなくてさ。整備とか設計とかそういう内部の仕事につきたくて大学も機械科選んだし、部屋もこんなんなっちゃったよ」  こんな遠くに住んでいるのは、あのゴツいバイクで走っているところを見られでもしたらバレてしまうかもしれないからだそうだ。 「ごめんね。ずっと黙ってて」 「ほんとだよ。俺にだけでも言ってくれればよかったのに」  拗ねて唇を突き出しながら言えば、それを見たシュンは柔らかく笑った。か、可愛い。 「こんなこと知ったら、周藤くんに嫌われると思って」  そう言って俺の髪をそっと撫でる。ビク、と震えた自分が情けない。何だコレ、何だコレ! 「そ、んなわけない」 「そう?」 「俺がオタクだって分かってても、俺のこと嫌いにならなかったじゃん」 「だってそれは最初から知ってたから」 「同じだって」  シュンがありのままの周藤貴也をそのまま受け入れてくれたように、俺にだって、川住春を丸ごと受け止める覚悟がある。だって、他人と一緒にいてこんなに心地よいと思ったのは初めてなんだ。 「ね、俺に嫌われたくなかったってさ……」  前を向いていた体をひねってシュンのほうに向き直ると、ぐっと顔を近づける。布団の上に伏せられた手に自分の手を重ねれば、シュンの細い体が強張ったのが分かった。 「それって、そのくらい俺が好きだってこと?」  眼鏡の奥の瞳をまっすぐ見つめる。少し吊り目がちだけど黒目の多いブラウンの瞳。今はもうそこに春ちゃんの姿を重ねることは、ない。  困ったようなシュンの顔がカァッと赤くなる。なあ神様、仏様、嫁様。これってもう自惚れてもいいだろう? 「……かなわないなぁ」  真っ赤な顔のまま、くしゃりとシュンが笑った。その表情は今まで見てきたどの顔とも違って。胸の奥の奥の一番深いところが、キュゥッと縮こまった。 「俺は、どんなシュンでも好きだよ。地味でも、派手でも、眼鏡でも、かわいくても、DQNでも、はわわでも、オラオラでも」 「後半よく分からない……」 「好き」  手を握ったまま、またキスをした。ちゅ、ちゅ、と鳥が餌を啄むようにシュンの尖った唇を何度もつつく。ええっと、本当にいいのかなあ。次の段階に進んじゃっていいのかなあ。シュンがどのくらい許してくれるのかが分からないけれど、頭で考えるより先に体が動いてしまう。 「シュンも言って……」  キスとキスの合間に、息継ぎをしながら言う。我ながら苦し気な声がなかなかいい感じにセクシーだった気がする。シュンはきゅっと目を瞑ると、唇を食まれながら途切れ途切れに言葉を紡ぐ。 「す、き……周藤くんが、好き」  昇天しそう。  軽く握っていたシュンの手を強く握りしめると、閉じられた上唇と下唇の間にそっと舌を差し込む。ビクリと震えて離れようとしたシュンの頭を、片手で後ろから抑え込んだ。乱暴にはならないように、優しく、優しく。  薄く開かれた歯の間をゆっくり進んでいって、奥のほうでどうしたいいか分からず縮こまっている舌を、つん、とつついてみる。 「ん、っ」  何度もつん、つん、と刺激すれば、その度にシュンは体を震わせて小さく息をもらす。ああ可愛いなあ、えろいなあ。どうしよう、これ、止まらないかもしれない。 「ん、んん……」  シュンの舌の表面を舐めとる。裏筋も。もうここまでくれば遠慮は要らないとばかりに思い切り舌と舌を絡ませ合った。時々クチュ、と音がするのがもう卑猥で背徳的で淫猥で最高すぎて、ようやく唇を話したときにはもう俺のあれやこれやは限界だった。 「は、はぁ……」  薄桃に染まった顔で荒く息をつくシュンの唇は、俺のかシュンのか分からない唾液でしっとりと濡れている。えろい。えろすぎる。 「ごめん、嫌じゃなかった?」  一応聞けば、熱に浮かされたような顔のままコクリとうなずく。本当にどこまで許してくれるんだろう。そんなに可愛いとまじで俺、止まらない。 「シュン、俺、もう……」  肩をそっと押して、あくまで優しくベッドに押し倒す。大きな目を隠す眼鏡も取り去ってベッドの上部の棚にそっと置いた。シュンは目をとろんとさせて、されるがままだ。いいのかな、本当にいいのかな、でももう止まらないんだよなあ。

ともだちにシェアしよう!