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五
今日は会社で、入社した俺の歓迎会を開いてくれた。
いや、ホントは違うんだけど、俺がそういうことにした。
リーフレットとかメニュー表を納品した和風創作料理屋さんに、付き合いでご飯食べに来たんだよね。
先生のとなりに千坂くんを座らせる。
たぶんさ、ふたりだけだったら向かい合わせに座ってただろ。
俺が入ったからとなりに座れるようになったんだよ。
俺、役に立ってるかな?
邪魔してるか。
三人でビールで乾杯して、次々と運ばれてくる料理に箸をつける。
千坂くんがなんとなく嬉しそうに見えた。
先生もニコニコして、千坂くんに語りかける。
「久しぶりだね、こういうの。あんまりレクリエーションのない会社でごめんね」
「いえ、社長は栄進を優先して下さい。せっかく文句言うような社員がいない会社なんですから」
あー、なんでこのあいだ千坂くんにいいヤツ判定されたかわかったぞ。
先生の味方として認められたんじゃないか?
……この人真面目な顔して、どこまで先生中心の思考回路してんだよ。
なんか、かわいいんだけど。
「五嶋くん、会社は慣れた?」
先生はニコニコを今度は俺に向けた。
「たぶん慣れた! 人数少ないと気が楽だね、仕事も飲み会も」
前の会社、レクリエーション的なの何度かあったけど、ぶっちゃけめんどくさかった。
気に入らないヤツとも絡まなきゃいけなかったからね。
「五嶋くん、量をこなしてくれるからとっても助かってます」
わー、先生が褒めてくれた!
そして今日は、千坂くんも怖い顔しない。
「大きい会社で鍛えられた人間を入れてもらって、俺も助かりました」
俺じゃなくて俺を入れた先生を褒めてるけど、千坂くんも助かってるんだ、嬉しいな。
「僕一人でやってたときよりいろんなことができて、最近仕事が楽しいんだよね。千坂くんを売り込む形にしてよかった」
千坂くんが中心になって、先生と俺で補佐する形。
それがこの会社だって俺は知ってたけど、千坂くんはなぜか、びっくりしていた。
「え、俺、ですか?」
「そうだよ。千坂くんの力で仕事増やして五嶋くんに入ってもらって。千坂くんが苦手な部分を僕と五嶋くんでできれば、安定してやっていけるんじゃないかな」
俺、ただのオペレーターじゃなくてデザインも期待されてる?
でも千坂くんが苦手なトコとかあるのかな。
「俺は、社長の補佐しかしてないです」
謙遜じゃなく本気でそう思ってそうな千坂くんに、先生は優しい顔で言った。
「僕はフリーランスだったのに、千坂くんのセンスが欲しくて事務所を法人にしたんだから。この会社はきみの会社みたいなものだよ」
えー。
なんで千坂くんの会社作っちゃう人が千坂くんの告白断ってんの?
ホントに欲しかったのはセンスだけなのかな。
二十歳そこそこの経験値ゼロに近い人間に、普通自分の会社託 す?
千坂くんは戸惑いと喜びが混ざった複雑な表情で、
「聞いてないです」
とつぶやいた。
いつもの千坂くんからは想像つかない顔が、またかわいいなーと思った。
宴もたけなわな頃合い、前のほうから歩いてきた女の人が突然こちらに向かって声を上げた。
「ちょっと、すごいかわいい男の子!」
酔っ払ってるのかな、二十代後半くらいの女の人二人が寄ってくる。
俺に、言ってるんだよね。
俺小学校のときはまず女の子に間違えられてたし、中学からもよく知らない人に声をかけられてた。
「モデルかなにかやってるんですか?」
「え、女の子じゃないよね?」
モデルなんてしてないし、女の子でもないし。
俺、こういう女の人が苦手だった。
子どものときにこういうのされて、親が一緒にいて、親が俺の見た目にスゴい腹立ってるんじゃないかって思って。
母親は喜んでたけど、父親はどう思ったか、今もわからなくて、正直トラウマで。
「ごめんね、僕たち食事中だから席を外してもらえないかな」
社長がやんわり拒否しても、彼女たちは去らなかった。
「えー、でも写真撮りたい」
「こんな田舎でこんなかわいい子見ないもんね」
酔ってると普段セーブできることセーブできないんだろうね、絡 まれるとなかなか解放されないの、知ってる。
ただただじっとしていると、前方から手が伸びて、俺の頭に乗った。
「こいつ俺のオトコなんだけど、ちょっかい出さないでくれる?」
千坂くんが、なんかおかしなこと言ってる。
「えー、なにそれ!」
「写真撮るくらいいいでしょ」
それでも彼女たちは盛り上がって、ちょっかい出すのをやめない。
千坂くんが、無言で立ち上がる。
喧嘩でも始めるのかなと思ったら、俺の腕を掴んで、引っ張った。
出口に向かって歩き出す。
「どこ行くの?」
女の人が笑いながら聞くと、千坂くんは振り向いて言った。
「ホテルだよ」
外に出る。
女の人は、追ってきたりはしなかった。
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