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第一章・11
どうして。
どうして、なぜ生物の授業を受けに来なかった、と叱ってはくれないんだろう。
叱られれば、次の授業はもっと受けやすくなるのに。
叱られたから仕方なく来てやったんだ、と言い訳ができるのに。
陽は、誰より衛に懐いていながら、誰よりこの男が苦手だった。
気まぐれに笑いかけ、気まぐれに無視し、そして気まぐれに話をした。
そんな陽を、いつも大きく広く、深く受け止めてくれる衛。
その寛容な心が、くすぐったかった。
投げかければ必ず返って来る愛情に、照れた。
これまでにも、そんな相手がいないでもなかった。
だが衛は、今まで出会った人々の誰より陽のわがままに付き合ってくれたし、誰より陽を大事にしてくれた。
誰より好きな人だった。
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