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第一章・16

 陽は折角の新しい高等学校になじめなかったのか、1年生の初夏の頃から次第に怠学し始めたのだという。  抜群の成績で入学してきたにもかかわらず、だ。 「何かあったのか、何が気に入らないのか、って随分心配したんだけどねぇ。ちっとも答えてくれないのよ~」  放課後の、ざわついた職員室。  衛の斜め向かいに座る、英語教師の左近(さこん)が爪を磨きながらそう話す。  この口調、この化粧、このネイルでありながら、彼はれっきとした男性だ。  自称『オカマさん』なのだが、しっかり同性愛者であることをカミングアウトしている肝の据わった男だ。  衛がバイセクシャルだという事も、彼はすぐに見抜いた。  なかなかに油断ならない、しかし今では校内で最も気の置けない間柄になっている。  二人の共通の話題は、ほとんどあの眠り猫・陽の事だった。

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