23 / 152

第二章・卒業と愛情と

 卒業式当日。  講堂へ入場する直前に、陽はだらしなく緩ませていたネクタイを、衛の手によって締め直された。 「せっかくの晴れ舞台だ。胸を張って行け」 「……ん」  言葉が喉に詰まって出てこない。  顔もまともに見られない。  何か話すと、衛の顔を見ると、もうその場で涙が溢れてきそうだったから。  おごそかに、式典は過ぎてゆく。  校長の祝辞も、3年生代表の感謝の言葉も、全く耳に入らない。  頭の中は、眼の前を過ぎゆく自分の卒業式などではなく、3年間を共に過ごした衛との思い出だけだった。  衛のことで、頭も胸もいっぱいだった。

ともだちにシェアしよう!