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第二章・6
「衛先生のボタン、だぁれも欲しいって言わなかったんだろ? 可哀想だから、僕が貰ってあげる。第2ボタン」
ぐぅ、と衛は軽く口の端を下げると、淡々とこう言った。
「着替えたから、解からないだけだ。式典で着ていたスーツのボタンは、あっという間に全部むしりとられていったぞ」
「嘘ばっかり」
楽しそうに笑った後、陽は衛の顔を見上げながら眼を細めた。
「変わったね、衛先生。初めて会った頃は、そんな冗談言うような人じゃなかったのに」
「おかげさまでな」
そう。
成長したのは陽だけではない、とは自分でも気づいていた。
彼と付き合うには、並々ならぬ我慢が、忍耐力が必要だった。
からかわれても、裏切られても、手ひどい仕打ちを受けても、じっと堪えてただ受け止めた。
忍耐は美徳だ、人生の修行だ、と過去の衛は考えていた。
しかし陽と出会ってからは、その忍耐にもいろいろあることを知った。
苦しい修行などではなく、朗らかで刺激的な、甘い忍耐もあるものだ。
衛は、黙って白衣の第2ボタンをちぎると、陽の手に握らせた。
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