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第二章・8
「ひどい! 先生の馬鹿! こんな時は、もっと……」
「もっと、何だ?」
「もっと……」
後はもう、何も言わずに陽は衛の胸に抱きついてきた。
耐えに耐え、堪えに堪えていたのだろう。
嗚咽が漏れ、肩が震えている。
そんな彼の背中を、衛は優しく一撫でしてポンポンと軽く叩いた。
初めて会った時から、俺の心を捕らえて離さなかったこの少年。
ただの生徒というにはあまりにも美しく可愛く、魅力的過ぎた。
一本気で、これまで真っ直ぐ突き進んで来た迷う事のないこの精神に、大きな石つぶてを何度も何個も放り投げては、波紋を作ってきた橘 陽。
俺の心を散々掻き乱しては笑う、いたずらな猫。
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