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第三章 新生活

 桜もそろそろ終わりを告げ、新緑の季節が訪れようとしていた。  風に乗って、どこから運ばれてきたのやら、名残の花びらが数枚足元に落ちている。  標高500m程度のなだらかな山裾に、ぼちぼち拡がりはじめた住宅地。  まだ緑の多く残される中、山鳩の鳴く声が聴こえる。  鋳物でできた門扉を開け、玄関のドアへ進む。  どきどきと胸を弾ませる陽に、衛はそっと鍵を手渡した。 「合鍵だ。失くすなよ」 「うん!」  あぁ、ここが新しい僕の家。  新しい季節、新しい社会、そして新しい生活が始まるんだ。  衛と共に暮らす毎日が。

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