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第三章・3
「いい匂い! これ、新築?」
「あぁ、築3年くらいだそうだ」
温かな木の香り。
生活臭は全く感じられない。
「家主がこの家を建てたばかりで、早々に海外勤務になったらしくてな。夫婦共々移住したそうだ」
衛の説明も聞くか聞かずか、陽は次々と部屋を覗いて回っている。
「ここが衛の書斎で~、ここがリビング。それから、キッチン。こっちは……ぅわあ!」
替えたばかりのまだ青い畳に転がり、陽はきゃっきゃとはしゃいでいる。
「畳! 新しい畳~! いい匂い! 憧れてたんだ、僕。畳の御座敷!」
フローリングの洋間しか知らなかった陽には、12畳の広い和室は随分とお気に召したらしい。
衛は笑うと、自分もそこへ正座した。
「二人で暮らすには少し贅沢かと思ったが、気に入ってくれたならよかった」
うんうん、気に入った、褒めて遣わす。
そんな風にはしゃいでいた陽は、やがてごろごろと動く事をやめて仰向けに寝たまま、衛の方を見た。
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